企業は利益が黒字になることを目指して経営しますが、事業の不振や外部環境の変化などにより、損益計算書の利益が赤字になることがあります。
しかし、損益計算書で赤字が出た場合の見方や、問題点が分からない方が多いのではないでしょうか。
そこでこの記事では、赤字決算の定義や、損益計算書における5種類の赤字の見方、問題点などを解説していきます。
さらに、赤字決算のメリットとデメリットなども解説するので、赤字決算について詳しく知りたい方は最後までお読みください。
赤字決算・マイナス決算とは
赤字決算・マイナス決算とは、売上よりも費用の方が大きくなり利益を出せていない状態で、一定期間の経営成績を示す損益計算書で確認できます。
赤字決算にはさまざまなケースがあり、本業が儲からずに営業利益で赤字の場合や、当期だけの一時的な要因により税引前当期純利益が赤字の場合もあります。
したがって、損益計算書で表示される5種類の利益ごとに、赤字の見方と問題点を理解することが大切です。
次の章で、利益ごとの赤字の見方と問題点を解説するので、参考にしてください。
また赤字決算の特徴としては、赤字の状態つまり税法上の課税所得が発生しない状況では、法人税の負担がないことです。
赤字決算は、デメリットしかないと思われる方が多いかもしれませんが、法人税の負担がないなどのメリットがあることを、覚えておきましょう。
損益計算書5種類の赤字の見方と問題点
決算書から企業が赤字か黒字かを見分けるには、何をみれば良いでしょうか?
赤字かどうかを見分けるために使用する財務諸表は、前の章で解説した一定期間の経営成績を示す「損益計算書」です。
ただし、損益計算書には5種類の利益があるため、それぞれが赤字のときの見方と問題点を理解する必要があります。
そこでここでは、下記の5つのケースを解説していきます。
● 損益計算書の「売上総利益」が赤字
● 損益計算書の「営業利益」が赤字
● 損益計算書の「経常利益」が赤字
● 損益計算書の「税引前当期純利益」が赤字
● 損益計算書の「当期純利益」が赤字
1つずつ解説していくので、赤字決算について理解を深めていきましょう。
損益計算書の「売上総利益」が赤字
売上総利益は、粗利とも呼び、売上高から売上原価を引いた利益のことです。
売上原価とは、材料費や工場の人件費など製造するために直接的にかかった費用や、仕入時の費用のうち、売り上げた商品にかかった費用のことを指します。
売上総利益が赤字ということは、売上高よりも売上原価の方が大きい状況のため、商品が売れたら赤字になってしまうことを指します。
したがって、早急に改善策を検討し売上総利益を黒字にする必要がある、といえるでしょう。
売上総利益が赤字の場合は、材料費や人件費が高騰して売上原価が高くなってしまったケースや、在庫を処分するために想定以上に販売単価を安くして、売り上げたケースが考えられます。
売上総利益の赤字が一時的な場合もありますが、商売が成立しているとはいえないため、赤字の要因を見つけて黒字化に向けて手を打つべきです。
損益計算書の「営業利益」が赤字
営業利益は、売上総利益から販売費及び一般管理費を引いた利益のことです。
販売費及び一般管理費とは、スタッフの人件費やオフィスの家賃、広告費などの費用のことを指します。
営業利益は本業の儲けを表しているため、損益計算書の中でも重視される利益といえるでしょう。
したがって営業利益が赤字の場合、本業で赤字になっていることを示しているため、早急に手を打つ必要があります。
営業利益が赤字の場合に進める内容としては、下記の施策が考えられます。
● 販売量を増やしたり、売上単価を見直したりして売上高を伸ばす
● 材料費やエネルギー費などを見直して、売上原価を抑えるように努める
● 広告費などの販売費及び一般管理費に使いすぎがないか見直す
売上を上げるための施策を行ったり、費用を見直したりして、改善策を進めるべきです。
損益計算書の「経常利益」が赤字
経常利益は、営業利益から営業外損益を加減して算出された利益で、企業が通常業務の中で得た利益のことです。
営業外損益とは、受取配当金や借入金の支払利息、雑損失などの本業以外で経常的に発生する収益・費用です。
もし営業利益が黒字で経常利益が赤字であれば、営業外費用の金額が大きいことを意味するため、営業利益つまり本業の儲けで、借入金の支払利息を払えていないなどのケースが想定されます。
このままでは利息の支払いのために、追加の資金が必要になってしまいます。
したがって経常利益が赤字の場合、本業でどのような改善策を進めるかが重要になるといえるでしょう。
損益計算書の「税引前当期純利益」が赤字
税引前当期純利益は、経常利益から特別損益を加減した利益です。
特別損益は、臨時的に発生した費用や収益のことで、固定資産除却損や減損損失などが特別損益の中の特別損失に計上されます。
なお、経常損益と特別損益の違いは、経常損益が定常的に発生したものを表しており、特別損益が臨時的に発生したものを表していることです。
もし経常利益が黒字で、税引前当期純利益が赤字の場合は、多額の特別損失が計上されたことが予想されます。
特別損失は当期に臨時的に発生した損失のため、来期以降は発生しない可能性が高いといえます。
したがって、税引前当期純利益が赤字になった要因である特別損失が、本当に当期だけの計上なのかを確認しておくことが大切です。
特別損失が当期だけの計上であれば、来期以降の黒字化も考えられるでしょう。
損益計算書の「当期純利益」が赤字
当期純利益は、税引前当期純利益から法人税等を加減した利益です。
法人税は利益から算出されるため、税引前当期純利益が赤字のときは法人税がかからずに、当期純利益が税引前当期純利益の金額と変わらないと思う方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、繰延税金資産の取り崩しにより、税引前当期純利益から当期純利益にかけて、さらに赤字金額が増える可能性があることに注意が必要です。
繰延税金資産とは税金の先払い分で、計上しておくと翌年度の課税所得から控除されて法人税を減額できます。
ただし、赤字のときのように将来控除する課税所得の計上が見込めない場合は、繰延税金資産の取り崩しを行うことが必要です。
そして繰延税金資産の取り崩しの際は、繰延税金資産を費用化するため、費用化した分赤字が拡大してしまうことを覚えておいてください。
したがって、税引前当期純利益が赤字の際は、繰延税金資産がどれくらいあるかを確認すると良いでしょう。
赤字決算・マイナス決算のメリット
各企業が黒字決算を目指して事業活動を行いますが、ときには売上よりも費用の方が大きくなり赤字決算・マイナス決算になってしまうこともあるでしょう。
実は赤字決算・マイナス決算になってしまった場合、メリットがあるのをご存じでしょうか?そこでここでは、赤字決算・マイナス決算のメリットを解説します。
メリットは下記の3つです。
● 法人税の負担がない
● 翌年以降の黒字と相殺し法人税を軽減できる
● 企業によっては法人税の還付金をもらえる
1つずつ解説していきますので、参考にしてください。
法人税の負担がない
メリットの1つ目は、法人税の負担がないことです。
各企業は、当期の活動により得た利益から税法上の儲けである課税所得を算出し、法人税率を乗じて法人税額を計算します。
法人税額を算出する計算式は、下記の通りです。
法人税額=課税所得×法人税率
上記の計算式の通り、法人税額は課税所得、つまり利益が出たときのみ法人税が課税されます。
したがって、赤字決算の場合は利益が出ていないため、法人税の負担がありません。
毎期多くの法人税を払っていることを考えれば、法人税の負担がないことは大きなメリットといえるでしょう。
翌年以降の黒字と相殺し法人税を軽減できる
メリットの2つ目は、翌年以降の黒字と相殺し法人税を軽減できることです。
当期で赤字が出た場合、法人税額を算出するための課税所得が発生していないため、法人税負担がありません。
さらに、当期の赤字金額分は、税務上の繰越欠損金として扱えるため翌年以降に繰り越して、黒字が出た場合に相殺することで法人税額を軽減できます。
しかも、赤字となった分の繰越欠損金の繰越期間は10年とされているため、10年の間に黒字が出た場合に相殺をして法人税額の軽減が可能です。
ただし、繰越欠損金を利用するには、赤字を出した事業年度に青色申告書を提出し、さらに次年度以降も確定申告書を連続して提出することなどの条件があることには、注意をしてください。
企業によっては法人税の還付金をもらえる
メリットの3つ目は、企業によっては法人税の還付金をもらえることです。
当期の事業年度で赤字を出してしまった場合、前期の法人税の一部を還付してもらえる、欠損金の繰り戻し還付制度があります。
なお、資本金が1億円以下の企業で、赤字を出した年度の青色申告書である確定申告書を提出していること、などの条件に当てはまる企業に適用されます。
前期の法人税が還付されれば、赤字になって厳しくなった資金繰りの改善が期待できるでしょう。
赤字決算・マイナス決算のデメリット
前の章で赤字決算・マイナス決算のメリットを解説しましたが、当然デメリットもあります。
赤字決算・マイナス決算のデメリットは以下の2つです。
● 信用がなくなり融資を受けるのが難しくなる
● 倒産の確率が上がる
赤字決算・マイナス決算になると法人税の軽減ができるなどのメリットがありますが、メリットの効果は一時的なものに過ぎません。
上記のようなデメリットが考えられるため、赤字を早期に改善して事業活動を行うことが大切です。
1つずつ解説していきます。
信用がなくなり融資を受けるのが難しくなる
デメリットの1つ目が、信用がなくなり融資を受けるのが難しくなることです。
赤字になってしまうと、銀行が融資を行う判断基準の格付けのランクが低下し、融資を受けるのが難しくなります。
融資を受けられなくなることは、資金繰りに影響を与えるため、大きなデメリットです。
倒産の確率が上がる
デメリットの2つ目が、倒産の確率が上がることです。
いうまでもなく、赤字続きであると債務超過となり、会社が倒産してしまいます。
継続的に会社を経営していくためにも、赤字体質から脱却し、早期の黒字化を目指すべきです。
損益計算書が赤字でも安心できる状況
損益計算書が赤字だからといって、必ずしも悲観的になる必要はありません。
なぜなら損益計算書が赤字でも、安心できる状況もあるからです。
具体的には、下記の4つのケースのときです。
● 原価率の悪化が一時的である状況
● 計上された減価償却費が大きい状況
● 営業外支出が一過性のものである状況
● 特別損失で赤字となっている状況
1つずつ解説しますので、損益計算書が赤字の企業の方は、上記のケースに当てはまるかどうかを確認してみてください。
原価率の悪化が一時的である状況
売上総利益が赤字の場合、原価率の悪化が一時的な状況であれば安心できます。
例えば、材料費やエネルギー費の高騰が一時的で、今後材料費とエネルギーの単価が下がってくると予測できれば、将来的には売上総利益の黒字が見込めるでしょう。
また、高付加価値のある新商品は収益率が高いため多くの利益を見込めますが、新商品が出る前は値引きをして販売するなど、原価率が一時的に悪化してしまいます。
したがって、一時的な原価率の悪化が新商品が出る前の時期であれば、新商品が販売されるまでの悪化と考えられるため、損益計算書が赤字でも安心できることになります。
計上された減価償却費が大きい状況
減価償却費は、固定資産の購入代金を決められた耐用年数で配分し、計上された費用のことです。
減価償却費は損益計算書の費用として計上されますが、固定資産の価値を落とす会計処理で、現金が出ていくわけではありません。
したがって、減価償却費分の現金が手元に残るため、計上された減価償却費が大きいことが原因で損益計算書が赤字になっても安心できる状況といえます。
ただし、減価償却費による赤字が継続的に続く場合は、事業活動に対して設備投資が過大であることを意味しているため注意が必要です。
営業外支出が一過性のものである状況
営業外支出は、借入金の支払利息や為替差損、有価証券売却損などの財務活動により支出されたものや、雑損失など本業以外の影響で発生した費用のことです。
借入金の支払利息は、経常的に発生するもののため一過性ではありませんが、為替差損や有価証券売却損などは多くの場合、一過性のことと考えられます。
したがって、一過性であれば来期以降は営業外支出が発生しないため、損益計算書が赤字でも安心できるといえるでしょう。
特別損失で赤字となっている状況
特別損失は、臨時的かつ多額の場合に計上されるものです。
例えば、固定資産を廃売却した際の損失や、収益性が低下して資産の価値を下げる際に発生する減損損失などが特別損失にあたります。
特別損失は当期に臨時的に計上したもののため、来期以降は特別損失が計上されないと考えられます。
したがって、特別損失で赤字になっている状況は、安心できるといえるでしょう。
ただし、当期に特別損失として計上されたものが来期以降に発生せず、当期だけに計上される内容のものなのかは確実に確認しておいてください。
損益計算書は下から見て解釈するのがベスト
損益計算書を見るときは、下から見て解釈し、改善策を考えるのがベストです。
特に赤字のときは、損益計算書を下から見て考えることをおすすめします。
なぜなら、損益計算書を上から見てしまうと、売上ではなく費用の方を削減しようと考えてしまうからです。
損益計算書は売上高から始まり、売上原価や販売費及び一般管理費などの費用が引かれて利益が計算される構造のため、費用の中の特に固定費を削減しようと考える傾向があります。
固定費を削減できれば、すぐに損益計算書を良くすることができるため、固定費の削減が利益を出す特効薬と考える方もいるでしょう。
しかし、固定費を削減するには限界があります。
固定費の多くを占めるのが人件費のため、リストラを進める経営者もいます。
ただ、リストラは社員の仕事に対するモチベーションを低下させる上に、社員を解雇するのはとても困難なことです。
したがって、損益計算書を下から見て費用、特に固定費がどれだけかかっているかを把握し、必要な利益を生み出せる売上高が、いくらなのかを逆算していくと良いでしょう。
損益計算書の赤字を解消するには固定費を削るのではなく、販売単価を見直したり、営業方法を変えたりして、売上を上げる努力をした方が良いといえます。
まとめ
この記事では、損益計算書の赤字決算の見方や問題点を解説しました。
損益計算書では5つの利益があるため、赤字を出したのがどの利益段階かを把握し、その利益段階での問題点を理解することが重要です。
そして赤字決算・マイナス決算でも下記の3つのメリットがあることも解説しました。
● 法人税の負担がない
● 翌年以降の黒字と相殺し法人税を軽減できる
● 企業によっては法人税の還付金をもらえる
赤字決算・マイナス決算のデメリットは、下記の2つが挙げられます。
● 信用がなくなり融資を受けるのが難しくなる
● 倒産の確率が上がる
さらに、損益計算書が赤字でも安心できるケースが、下記の4つのときであることも解説しました。
● 原価率の悪化が一時的である状況
● 計上された減価償却費が大きい状況
● 営業外支出が一過性のものである状況
● 特別損失で赤字となっている状況
損益計算書で赤字を出してしまうと、すぐに利益を出せるため、固定費の削減を考えるケースが多いかもしれません。
しかし、損益計算書が赤字になってしまった場合は、損益計算書を下から見ることで、費用に見合う売上がどれくらいなのかを考えると良いでしょう。