損益計算書には、勘定式と報告式の2つの表示方法があります。
しかし、勘定式と報告式について何が違うのか、またどのように損益計算書を見たら良いのか分からない人も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では損益計算書の勘定式と報告式の違いや、報告式を中心に損益計算書の見方を解説していきます。
損益計算書の勘定式と報告式の違いや見方が分からずにお悩みの方は、ぜひ最後までお読みください。
損益計算書の勘定式と報告式の違い
損益計算書には勘定式と報告式の表示方法がありますが、それぞれどういった違いがあるのでしょうか?
そこで、ここでは損益計算書の勘定式と報告式についてそれぞれ解説していきます。
勘定式と報告式の大きな違いは下記の通りです。
勘定式:左右に分けて表示されている
報告式:上から下に表示されている
以下で詳しく解説していきます。
損益計算書の勘定式とは
損益計算書の勘定式は左右に分けられ、左側に費用、右側に収益が表示されるのが特徴です。
下記が損益計算書の勘定式の例です。
費用 | 金額 | 収益 | 金額 |
---|---|---|---|
売上原価 | 300 | 売上高 | 500 |
広告費 | 50 | ||
支払利息 | 10 | ||
固定資産売却損 | 20 | ||
法人税等 | 70 | ||
(当期純利益) | 50 | ||
合計 | 500 | 合計 | 500 |
上記の通り、勘定式は勘定科目ごとに表示しており、損益の内容が分かるようになっているため、損益計算書の詳細を把握できることがメリットです。
後述する報告式では勘定科目別で把握できないため、損益計算書の中身を理解するときには勘定式が便利といえるでしょう。
損益計算書の報告式とは
損益計算書の報告式は、企業の決算発表などで普段よく目にする形式のことで、上から下に表示されているのが特徴です。
報告式の例は、下記の通りです。
勘定式で挙げた例の損益計算書の数字を用いて報告式で表示したため、違いを確認してみましょう。
売上高 | 500 |
売上原価 | 300 |
売上総利益 | 200 |
販売費及び一般管理費 | 50 |
営業利益 | 150 |
営業外費用 | 10 |
経常利益 | 140 |
特別損失 | 20 |
税引前当期純利益 | 120 |
法人税等 | 70 |
当期純利益 | 50 |
勘定式では各勘定科目の記載があったため、損益計算書の詳細を知りたい場合は勘定式の表示方法が適していることがお分かりいただけることでしょう。
ただし、報告式にすると営業利益や経常利益など、段階的に利益の表示ができます。
段階的に利益の表示をし、本業による儲けなのか、それとも本業以外の儲けなのかなどが分かることが報告式のメリットです。
次の章以降では、よく目にする報告式の損益計算書の見方について解説していきます。
損益計算書の報告式で用いられる7つの項目
損益計算書の報告式は、上から下に表示されているのが特徴で、普段よく目にする表示方法です。
そこで、ここでは損益計算書の報告式で用いられる7つの項目を解説していきます。
・売上高
・売上原価
・販売費及び一般管理費
・営業外収益
・営業外費用
・特別利益
・特別損失
1つの項目ごとに重要な意味を持っているため、それぞれ解説していきます。
損益計算書を読み取るために、1つずつ確認していきましょう。
売上高
売上高は、本業の商品やサービスを売り上げた金額のことです。
損益計算書の一番上に位置し、金額が大きければ企業の稼ぎが多く、金額が小さければ企業の稼ぎが少ないことを意味します。
売上原価
売上原価は、商品やサービスを製造したり、仕入れたりしたときにかかった経費のことです。
ただし、当期に発生した原価を計上するのではなく、当期に売り上げた商品やサービスにかかった経費だけを計上することがポイントです。
また、売上原価は下記の3つの項目で表示されます。
・期首商品棚卸高
・当期商品仕入高
・期末商品棚卸高
上記3つの項目から売上原価を算出するときは、下記の計算式を用いることを覚えておきましょう。
売上原価=期首商品棚卸高+当期商品仕入高ー期末商品棚卸高
販売費及び一般管理費
販売費及び一般管理費は、本業の活動をする上でかかった費用のうち、原価以外の販売費と一般管理費のことです。
略して「販管費(はんかんひ)」とも呼ばれます。
販売費と一般管理費の具体例は下記の通りです。
・販売費:販売手数料、広告宣伝費などの商品やサービスの販売活動を行う際にかかった費用
・一般管理費:オフィスの減価償却費、スタッフの人件費など一般管理業務を行う際にかかった費用
営業外収益
営業外収益は、本業以外の活動で経常的に発生する収益のことです。
例えば、受取配当金や受取利息、また為替差益などを指します。
営業外費用
営業外費用は、本業以外の活動で経常的に発生する費用のことです。
例えば、借入金の支払利息や有価証券売却損、また為替差損などを指します。
特別利益
特別利益は、臨時的に発生した利益のことです。
例えば、固定資産売却益や保険差益などがあります。
特別損失
特別損失は、臨時的に発生した費用のことです。
例えば、固定資産売却損や減損損失などがあります。
報告式の「棚卸減耗費」は状況によって記載場所が変わる
損益計算書の報告式の費用は、下記の4つのいずれかの項目で計上されます。
・売上原価
・販売費及び一般管理費
・営業外費用
・特別損失
基本的には勘定科目ごとに上記4つのうち、どの費用項目で計上されるかは決まっていますが、棚卸減耗費は状況により記載場所が変わることに注意が必要です。
棚卸減耗費とは、棚卸をした際に実物在庫が帳簿在庫より少ないために発生する損失のことです。
少ない分を費用処理することで帳簿から落とし、帳簿在庫と実物在庫を合わせますが、費用を計上するときに下記の判断基準でどの費用で処理するかを決めます。
・原価性がある場合:売上原価か販売費及び一般管理費
・原価性がない場合:特別損失か営業外費用
上記の通り、どの費用にするかの判断は原価性の有無が重要です。
それぞれ解説していきますので、棚卸減耗費を適切に処理するために確認していきましょう。
原価性がある場合は売上原価か販売費及び一般管理費
原価性がある場合は、売上原価か販売費及び一般管理費で処理するのが適しています。
また、一般的には売上原価で計上し、例外的に販売費及び一般管理費で計上することを覚えておきましょう。
原価性とは、通常の活動をしている中で発生が避けられないものかどうかを表しており、発生が避けられない場合を、原価性があるといいます。
例えば、ガソリンの在庫を管理している場合を考えてみましょう。
ガソリンは正常に管理をした状況でも気化するため、何もしなくてもガソリンの量が減ってしまいます。
したがって、ガソリンが減ったのは発生が避けられない、つまり原価性があると判断できるため、減ったガソリンは売上原価の棚卸減耗費で計上できることを覚えておきましょう。
原価性がない場合は特別損失か営業外費用
一方、原価性がない場合の棚卸減耗費用は特別損失か営業外費用で計上します。
発生が避けられない場合を「原価性がある」というため、「原価性がない」とは発生が避けられる場合となります。
発生が避けられる場合とは、どういったケースでしょうか?
ここでもガソリンを例に出しますが、ガソリンが盗難されたり紛失したりしてガソリンの量が減った場合を原価性がないといいます。
盗難や紛失はガソリンが気化するケースと異なり、盗難・紛失防止をすれば発生を避けられたケースです。
したがって、ガソリンが減少した理由が盗難や紛失であった場合の棚卸減耗費は、特別損失か営業外費用で計上します。
そして、特別損失と営業外費用のどちらにするかは、当期だけ臨時的に発生し、かつ金額が大きく、重要性が高い場合は特別損失で計上する、と判断します。
上記以外の場合は、棚卸減耗費を営業外費用で計上しましょう。
報告式の「商品評価損」は状況によって記載場所が変わる
前の章では棚卸減耗費の記載場所を解説しましたが、「商品評価損」も状況によって記載場所が変わります。
商品評価損とは、商品の価値が下がったときに、価値の低下分を帳簿へ反映する会計処理のことです。
商品の価値低下は、長期間在庫であったために商品が陳腐化してしまった、また流行遅れのために時価が原価よりも下がってしまったことなどが要因として挙げられます。
そして商品評価損の場合は、「特別損失」か「売上原価」に分けられるため、次で詳しく解説していきます。
「特別損失」か「売上原価」に分けられる
商品評価損の記載場所は「特別損失」か「売上原価」になり、臨時的に発生し、金額が大きく重要性が高い場合は、特別損失で計上します。
上記以外の場合、例えば経常的に発生し、金額が小さい場合は売上原価で計上します。
考え方を整理した図は下記の通りなので、参考にしてください。
臨時的に発生 | 経常的に発生 | |
---|---|---|
金額が大きい | 特別損失 | 売上原価 |
金額が小さい | 売上原価 | 売上原価 |
損益計算書の報告式の段階利益(5つの利益)
損益計算書の報告式では、段階的に以下の5つの利益が表示されています。
・売上総利益
・営業利益
・経常利益
・税引前当期純利益
・当期純利益
報告式では、5つの利益が何の利益を表していて、どういう計算式になっているかを理解することが重要です。
1つずつ解説していきますので、理解を深めていきましょう。
売上総利益
1つ目は売上総利益で、粗利(あらり)とも呼ばれる利益です。
売上総利益は、本業の商品やサービスを販売した売上高から、売上原価を引いた利益を表しています。
計算式は下記の通りです。
売上総利益(粗利)=売上高ー売上原価
営業利益
2つ目は営業利益です。
営業利益は、本業で稼いだ売上高から、売上に対応する売上原価と、本業の活動でかかった販売費及び一般管理費を引いて求めるため、本業で稼いだ利益を表しています。
計算式は下記の通りです。
営業利益=売上総利益ー販売費及び一般管理費
経常利益
3つ目は経常利益です。
経常利益は、本業の稼ぎを表す営業利益から、企業の通常の活動で発生した営業外収益と営業外費用を加減するため、企業の通常の活動で得た利益を表しています。
経常利益の計算式は下記の通りです。
経常利益=営業利益+営業外収益ー営業外費用
税引前当期純利益
4つ目は、税引前当期純利益です。
税引前当期純利益は、経常利益に臨時的に発生した特別利益と特別損失を加減するため、企業が実際に得た全ての利益を表しています。
計算式は下記の通りです。
税引前当期純利益=経常利益+特別利益ー特別損失
当期純利益
5つ目は、当期純利益です。
当期純利益は、税引前当期純利益から法人税等を引いた利益のため、最終的に残った企業の利益を表しています。
計算式は下記の通りです。
当期純利益=税引前当期純利益ー法人税等
損益計算書を活用するための4つの見方
ここまでは損益計算書の報告式に用いられている7つの項目や、5つの利益などを解説してきました。
ここでは、損益計算書を活用するための4つの見方を解説していきます。
・本業での利益率を確認する
・本業以外での利益率を確認する
・企業の総合的な利益率を確認する
・貸借対照表と両方で分析する
上記4つの見方を理解することで、損益計算書を活用した分析をできるようにしていきましょう。
1つずつ解説していきます。
本業での利益率を確認する
まずは、本業での利益率を確認してみましょう。
前の章で解説した通り、損益計算書には5つの段階利益があり、本業での利益率は売上高と営業利益を用いて計算すれば分かります。
本業での利益率である、売上高営業利益率の計算式は下記の通りです。
売上高営業利益率(%)=営業利益÷売上高×100
本業での利益率を確認することで、同業他社に比べて自社の本業での利益率がどの程度なのかを確認できます。
また、自社の前年実績や予算の売上高営業利益率と当期の実績を比べて、どのように増減しているかを分析してみても良いでしょう。
本業以外での利益率を確認する
本業以外での利益率の確認もできます。
本業以外の利益率は、売上高と経常利益から求める、売上高経常利益率を確認することで分かります。
売上高経常利益率の計算式は、下記の通りです。
売上高経常利益率(%)=経常利益÷売上高×100
自社の売上高経常利益率を同業他社と比べることで、本業以外も含めた利益率を確認できます。
また、損益計算書の経常利益より下に表示されている、臨時的に発生した特別利益と特別損失も確認することで、本業以外にどういった損益があったのかを確認できます。
企業の総合的な利益率を確認する
企業の総合的な利益率も確認してみましょう。
企業に最終的に残る利益は当期純利益のため、売上高と当期純利益から求める売上高当期純利益率を確認することで、企業の総合的な利益率を確認できます。
売上高当期純利益率の計算式は、下記の通りです。
売上高当期純利益率(%)=当期純利益÷売上高×100
当期純利益は株主配当金の原資であり、残った利益が内部留保になるため非常に重要な利益です。
同業他社や自社の実績などと、売上高当期純利益率の比較分析を行うと良いでしょう。
貸借対照表と両方で分析する
貸借対照表と損益計算書の両方で分析する方法も、解説していきます。
損益計算書の分析を貸借対照表の活用もしながら進めることで、利益の金額だけでなく、どれだけ効率的に稼いでいるかなどを確認できます。
効率的に稼げているかを確認する主な指標は、下記の3つです。
損益計算書の分析の際に、活用してみてください。
指標 | 指標名 | 計算式 | 分かること |
---|---|---|---|
ROA(Return On Assets) | 総資産利益率 | ROA(%) =当期純利益÷総資産×100 | 総資産を活用してどれだけ効率的に稼げたか |
ROE(Return On Equity) | 自己資本利益率 | ROE(%) =当期純利益÷純資産×100 | 株主が出資したお金とこれまでの利益を活用してどれだけ効率的に稼げたか |
PER(Price Earnings Ratio) | 株価収益率 | PER=株価÷EPS※EPS =1株あたりの純利益 | 現在の株価が企業の利益に対して割高か割安かどうか |
まとめ
この記事では、損益計算書の勘定式と報告式の違いや、損益計算書を活用するための見方などを解説しました。
損益計算書の勘定式は左右に分かれて表示されており、損益計算書の内容が詳しく分かります。
損益計算書の報告式は、上から下に表示されており、5つの段階利益が確認できます。
勘定式と報告式について、違いや具体的にどのように表示されるかを覚えておきましょう。
また、損益計算書の報告式で、棚卸減耗費と商品評価損は状況によって記載場所が変わることも覚えておいてください。
さらに、損益計算書を活用するための4つの見方は、下記の通りです。
・本業での利益率を確認する
・本業以外での利益率を確認する
・企業の総合的な利益率を確認する
・貸借対照表と両方で分析する
4つとも大事な見方のため、確実に覚えて損益計算書を活用していきましょう。