償却資産申告書は、償却資産の状況を自治体に報告するための申告書で毎年提出することが求められます。
しかし、償却資産申告書は記載する箇所が多く、年に一回だけの業務のため、書き方がわからない人も多いことでしょう。
そこで、本記事では償却資産申告書の基礎知識や書き方について、詳しく解説していきます。
さらに、償却資産申告書を提出しないとどうなるかについても解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
償却資産税と申告対象資産について
まずは、償却資産税の基礎知識と申告対象資産について解説していきます。
ここで解説するのは下記の3つの項目です。
・償却資産税とは「所有する償却資産にかかる税金」
・償却資産税の申告対象になる資産
・償却資産税の申告対象にならない資産
一つずつ確認していきましょう。
償却資産税とは「所有する償却資産にかかる税金」
償却資産税とは、所有する償却資産にかかる税金で固定資産税の一つです。
償却資産税額は、1月1日時点で所有する償却資産の評価額である課税標準額に対して、償却資産の税率1.4%を掛けた金額で決まります。
ただし、償却資産の課税標準額が150万円未満の場合には課税されません。
償却資産税の申告対象になる資産
償却資産税の申告対象になる資産は、土地と建物以外の減価償却資産です。
下に挙げた6種類の資産が、償却資産税の申告対象になる減価償却資産になります。
償却資産税の申告対象になる資産の種類 | 具体例 |
構築物 | 庭園、門・塀などの外構工事、受変電設備、その他建築設備など |
機械及び装置 | 製造設備などの機械及び装置、機械式駐車設備など |
船舶 | ボート、遊覧船、漁船、釣船など |
航空機 | 飛行機、ヘリコプター、グライダーなど |
車両及び運搬具 | ショベルローダ、フォークリフトといった大型特殊自動車など |
工具、器具及び備品 | パソコンなどの事務機器、測定工具、金型、医療機器、理容・美容機器など |
なお、取得価額が10万円以上30万円未満で少額減価償却資産の特例が適用され、全額償却をしたケースも償却資産税の申告対象になるため注意をしてください。
また、上に挙げた資産が全て事業で使用している資産とは限りません。
下記のケースにおいても償却資産税の申告が必要です。
・申告時点で使用を中止している遊休資産
・帳簿に記載のない簿外資産
・減価償却が完了し、帳簿価額が1円の固定資産
・稼働できるにもかかわらず、固定資産に振り替えていない建設仮勘定の資産
償却資産の申告時に稼働をしていない遊休資産などの場合でも、廃却や売却がされずに事業用に使える資産である場合は、償却資産税の申告が必要です。
償却資産税の申告対象にならない資産
取得価額が10万円未満で、消耗品費や修繕費などの経費で会計処理した場合は、償却資産税の申告対象にはなりません。
また、取得価額が10万円から20万円未満で、一括償却資産として3年間の均等償却を行った場合も、償却資産税の申告対象にならないことを覚えておきましょう。
償却資産申告書と提出の流れ
ここでは、償却資産税の申告に必要な償却資産申告書と、償却資産申告書を提出してから税金を納めるまでの流れを解説します。
償却資産申告書とは「償却資産を申告するための書類」
償却資産申告書とは、毎年1月1日時点で所有している償却資産について、償却資産のある市区町村に申告するための書類です。
償却資産は土地や建物の不動産のように登記を行っていないため、各市区町村で法人や個人事業主がどれくらいの償却資産を所有しているかを把握できません。
そのため、償却資産の所有状況を市区町村に申告し、償却資産の納税額が決められることになっています。
また、償却資産税申告書は確定申告書のように税金計算を行わず、どれくらいの償却資産を所有しているかを申告する書類であることがポイントです。
償却資産申告書の提出から納税までの流れ
償却資産申告の提出から納税までの流れをまとめた表は、下記の通りです。
内容 | 説明 |
償却資産申告書の提出 | 1月1日の時点で所有している償却資産について記載した償却資産申告書を、1月31日までに市区町村へ提出する。 |
税額の決定 | 償却資産の評価額と提出を受けた各市区町村で償却資産ごとに評価額を計算し、償却資産税の金額を決定する。 |
課税台帳への登録と公示 | 各市区町村で償却資産の評価額などを償却資産課税台帳へ登録し、公示する。公示後、申告者は課税台帳の確認ができ、登録された内容に不服があれば、審査の申し立てができる。 |
納税通知書の交付 | 納付通知書が発行される。課税された内容に不服がある場合は審査の請求ができる。 |
償却資産税の納付 | 納付通知書と納付書にもとづき、償却資産税の納付を行う。なお、通常は年4回に分けて納付する。 |
償却資産申告書の2種類の申告方法
償却資産申告書には下記の2種類の申告方法があります。
・一般方式
・電算処理方式
それぞれ解説していきます。
一般方式
一般方式は、申告初年度に所有する全ての償却資産を申告し、2年目からは償却資産の増加と減少の状況について申告する方式です。
償却資産が増加した際は、資産の種類・資産の名称・取得年月日・取得価額などを増加資産専用の申告書に記載して提出します。
償却資産が減少した際も、償却資産が増加した際と同様に、減少資産専用の申告書に必要事項を記載して、提出が必要です。
なお、償却資産の税額を計算する必要はありません。
電算処理方式
電算処理方式は、1月1日時点における全ての償却資産の評価額を事業者側、つまり申告者側が算出して申告する方式です。
償却資産の数が多く、償却資産申告書に対応している会計ソフトで償却資産管理を行っている場合は、電算処理方式がおすすめといえるでしょう。
したがって、償却資産の管理に会計ソフトを使用していなく、手書きで償却申告を行っている場合は、評価額の計算が困難なため、増加・減少を申告するだけの一般方式で申告する方が良いといえます。
償却資産申告書の書き方
ここまで償却資産申告の対象資産や申告方法などについて解説してきましたが、ここでは償却資産申告書の書き方について解説していきます。
下記の3つに分けて解説していきますので、それぞれ確認していきましょう。
・種類別明細書(増加資産・全資産)
・種類別明細書(減少資産)
・償却資産申告書(償却資産課税台帳)
種類別明細書(増加資産・全資産)
ここでは、2つある種類別明細書のうち、増加資産・全資産用の種類別明細書を解説していきます。
増加資産・全資産用の種類別明細書は、下記のケースで使用します。
・償却資産税の申告が初めてで、全資産を記載するケース
・償却資産税の申告が2年目以降で、償却資産が増加したケース
なお、増加した償却資産がなければ種類別明細書を提出する必要はなく、減少する資産もなければ、後ほど解説する償却資産申告書に「増減なし」と記載してください。
増加資産・全資産用の種類別明細書へ記入する項目と内容は、下記の通りです。
項目 | 内容 |
資産の種類 | 1.構築物、2.機械及び装置、3.船舶、4.航空機、5.車両及び運搬具、6.工具・器具及び備品の6つの資産の種類のうち、該当する番号を記入する。 |
資産の名称等 | 名称を記入する。 |
数量 | 数量を記入する。 |
取得年月 | 取得した年月を記入する。なお、1月1日に取得した償却資産があった場合は、前年の12月を取得年月として記入する。 |
取得価額 | 取得するためにかかった費用を記入する。購入手数料や据付費なども含めることに注意する。また、自社が税込経理方式であれば税込の金額、税抜経理方式であれば税抜の金額を記入する。 |
耐用年数 | 法定耐用年数を記入する。 |
増加事由 | 1.新品取得、2.中古取得、3.移動による受入れ、4.その他のうち、該当する番号に〇を付ける。 |
摘要 | 課税標準の特例などがある場合は、その旨を記入する。また、増加事由で3.移動による受入れを選択した場合は、どこから移動したのかを記入する。 |
なお、種類別明細表(増加資産・全資産用)の実際のフォーマットを見たい人は下記からご確認ください。
出典:さいたま市「令和5年度 固定資産税(償却資産)の申告について・種類別明細書(増加・全資産)」
種類別明細書(減少資産)
次に、減少資産の種類別明細書を解説していきます。
減少資産の種類別明細書は、償却資産の申告で2年目以降で、廃却や売却などで償却資産が減少したケースで使用します。
なお、減少した償却資産がなければ、減少資産の種類別明細書を提出する必要はありません。
増加した資産もなければ、後ほど解説する償却資産申告書に「増減なし」と記載しましょう。
減少資産・全資産用の種類別明細書に記入する項目と内容は、下記の通りです。
項目 | 内容 |
資産の種類 | 1.構築物、2.機械及び装置、3.船舶、4.航空機、5.車両及び運搬具、6.工具・器具及び備品の6つの資産の種類のうち、該当する番号を記入する。 |
(資産コード番号) | 抹消コード減少した償却資産に割り当てられた資産コードを記入する。なお、資産コードは市区町村から送付されている償却資産の明細書に記載されているコードのことを指す。 |
資産の名称等 | 名称を記入する。 |
数量 | 減少した償却資産の数量を記入する。全部でなく一部の償却資産が減少した際は、減少分の数量を記入することに注意。 |
取得年月 | 取得した年月を記入する。 |
取得価額 | 減少資産の取得価額を記入する。一部減少の場合は、減少分の取得価額を記入することに注意。 |
耐用年数 | 法定耐用年数を記入する。 |
減少の事由及び区分 | 1.売却、2.滅失、3.移動、4.その他のうち、該当する番号に〇を付ける。 |
1.全部、2.一部のうち、該当する番号に〇を付ける。 | |
摘要 | 減少した事由のうち、3.移動を選択した場合は、受入れ先を記入する。4.その他を選択した場合は、具体的な内容を記入する。上記以外でも必要に応じて記入すること。 |
なお、種類別明細表(減少資産用)の実際のフォーマットを見たい人は、下記からご確認ください。
出典:さいたま市「令和5年度 固定資産税(償却資産)の申告について・種類別明細書(減少)」
償却資産申告書(償却資産課税台帳)
償却資産申告書(償却資産課税台帳)は、種類別明細書の内容を取りまとめて償却資産の状況を申告する書類です。
償却資産申告書を記入する際は、すでに作成した種類別明細書や申告者の基本情報などを参照し、記入していきましょう。
特に大切な箇所は、償却資産の種類ごとに記載する取得価額の箇所です。
取得価額の欄に記入する項目と、参照する書類は下記の通りです。
記入する項目 | 参照する書類 |
前年前に取得したもの | 前年に作成した償却資産申告書 |
前年中に減少したもの | 種類別明細表(減少資産) |
前年中に取得したもの | 種類別明細表(増加資産・全資産) |
上に挙げた項目の記入が終わったら、下記の計算式により、1月1日時点で所有する償却資産の取得価額の合計金額を算出します。
1月1日時点における償却資産の取得価額の合計金額=前年前に取得したものー前年中に減少したもの+前年中に取得したもの
また、償却資産申告書(償却資産課税台帳)に記入する項目と内容は、下記の通りです。
項目 | 内容 |
住所 | 住所または納税通知書の送達先を記入する。 |
氏名 | 個人事業主は氏名、法人は会社名と代表者の名前を記入する。 |
個人番号又は法人番号 | 個人事業主はマイナンバー(個人番号)、法人は法人番号を記入する。 |
事業種目(資本金等の額) | 事業内容を記入する。また、法人の場合は資本金または出資金の金額も記入する。 |
事業開始年月 | 個人事業主は開業した年月、法人は会社設立年月を記入する。 |
この申告に応答する者の係及び氏名 | 償却資産申告書について問い合わせ可能な経理担当者の部署・氏名・電話番号を記入する。 |
税理士等の氏名 | 償却資産申告書の作成にあたり、税理士がかかわっている場合は、税理士の名前と電話番号を記入する。 |
短縮耐用年数の承認 | 短縮耐用年数の承認について有か無に〇を付ける。 |
増加償却の届出 | 増加償却の届出について有か無に〇を付ける。 |
非課税該当資産 | 非課税該当資産について有か無に〇を付ける。 |
課税標準の特例 | 課税標準の特例について有か無に〇を付ける。 |
特別償却又は圧縮記帳 | 特別償却又は圧縮記帳について有か無に〇を付ける。 |
税務会計上の償却方法 | 税務会計上の償却方法について定率法か定額法に〇を付ける。 |
青色申告 | 青色申告について有か無に〇を付ける。 |
市区町村内における事業所等資産の所在地及び家屋の所有区分 | 償却資産申告書の提出先と同じ市区町村内にある資産所在地について、変更や追加があれば記入する。また、自己所有か借家に〇を付ける。 |
借用資産(リース資産)有・無 | リース資産などの借用資産について、有か無に〇を付ける。もし、借用資産があれば貸主の名称や住所を記入する。 |
備考(添付書類等) | 以下の4つの中で該当する項目に〇を付け、必要に応じて追記する。 1.資産増減あり、2.増減なし、3.該当資産なし、4.廃業・解散・転出・合併等 |
なお、償却資産申告書(償却資産課税台帳)の実際のフォーマットを見たい人は下記からご確認ください。
出典:さいたま市「令和5年度 固定資産税(償却資産)の申告について・償却資産申告書」
償却資産申告書の提出先と提出期限
償却資産申告書の提出先は、償却資産がある市区町村の役所で、東京23区の場合は都税事務所です。
提出期限は1月31日です。
償却資産申告書を提出して受理されると、市区町村側で償却資産税額が計算されます。
そして後日、納付通知書と納付書が届くため、期限内に償却資産税を納めることになります。
償却資産申告書を提出しないといけない理由
構築物や機械装置などの償却資産は、建物や土地などのような登記の制度がないため、各市区町村で償却資産税額を算出する際に、償却資産がどれだけあるかの把握が困難です。
そのため、各市区町村が正しい償却資産税額を算出するために、償却資産の所有者が償却資産申告書を提出する必要があります。
償却資産申告書の未提出や遅延があるとどうなる?
個人事業主、あるいは法人が市区町村に償却資産税の申告をすることは、地方税法第383条により義務付けられています。
もし、申告対象の償却資産があるにもかかわらず、償却資産申告書の未提出があった場合は金銭罰である過料が課されることがあります。
また、償却資産税申告書の遅延がある場合は、未提出とみなされてしまい、未提出と同様に過料が課される恐れがあるります。
したがって、適切な内容で期限内に償却資産の申告をできるように、計画的に償却資産の申告作業を進めることが大切です。
なお、固定資産の増減がなかったり、該当する償却資産がなかったりしても償却資産の申告が必要です。
償却資産申告書(償却資産課税台帳)の備考欄に、該当する内容を忘れずに記載するようにしてください。
まとめ
本記事では、償却資産税と償却資産申告書について詳しく解説しました。
償却資産税とは、所有する償却資産にかかる税金で、法人・個人事業主に関係なく納税が必要な固定資産税の一つです。
償却資産申告書の際に必要な書類は、下記の3つです。
・種類別明細書(増加資産・全資産)
・種類別明細書(減少資産)
・償却資産申告書(償却資産課税台帳)
本記事内で、それぞれの書類について解説しているため、ぜひ参考にしてください。
また、償却資産申告書の提出先は、償却資産のある各市区町村で、提出期限は1月31日です。
償却資産税の申告は、地方税法第383条により義務付けられているため、未提出の場合は過料が課されることがあります。
償却資産の期限は毎年1月31日と決まっているため、償却資産申告書の提出期限に遅れることのないように、計画的に業務を進めることが大切です。