建物を取得した際には、減価償却費を適切に計算することが求められます。
しかし、建物の取得価額や耐用年数の考え方について、細かく知らない人も多いのではないでしょうか?
そこで、この記事では建物の減価償却費の計算方法を詳しく解説していきます。
減価償却費の計算の際に必要な耐用年数や取得価額、償却率などの重要項目も解説しますので、それぞれ確認していきましょう。
建物の減価償却について
まずは建物の減価償却について、下記2つの基本的な内容を解説していきます。
・減価償却とは
・建物の減価償却のポイント
減価償却とは
減価償却とは、建物や機械装置などの固定資産の取得にかかった金額を、税法で定められた耐用年数により分割して費用として計上することです。
減価償却を行う資産を減価償却資産と呼び、減価償却資産は取得価額が10万円以上で時間の経過により価値が減少していく資産のことを指します。
なお、建物と同じ不動産である土地は、会計上において価値が落ちないものと考えられているため、減価償却できないことに注意をしてください。
建物の減価償却のポイント
不動産の減価償却を考える上で大切なポイントは、建物と土地の取得価額を分けることです。
前述の通り、土地は減価償却ができない資産のため、建物と土地を一括購入した際には建物だけの取得価額を抽出し、減価償却を行う必要があるためです。
建物の減価償却費の計算方法
建物の減価償却費の計算方法を理解するには、下記の4つの項目を理解する必要があります。
・建物の減価償却費の計算が必要な2つのケース
・定額法と定率法
・建物の減価償却費の計算で必要な項目
・2007年の税制改正前後での計算方法の違い
それぞれ解説していきます。
建物の減価償却費の計算が必要な2つのケース
建物の減価償却費の計算が必要とされるのは、家賃収入がある場合と不動産売却をする場合の2つのケースです。
それぞれ解説しますので、確認していきましょう。
家賃収入がある場合
アパートやマンションなどの不動産経営をしたことにより家賃収入があった場合は、建物の減価償却費の計算が必要がです。
不動産所得として確定申告を行う際に、保険料などと同様に減価償却費も経費として計上できます。
減価償却費を適切に計算して経費として計上し、節税効果を受けましょう。
不動産売却をする場合
不動産の売却をして譲渡所得を得た場合、確定申告が必要です。
譲渡所得の確定申告の際には、建物の取得費から減価償却費を差し引くことになるため、建物の減価償却費が必要になります。
定額法と定率法
減価償却費の計算をする場合、主に定額法と定率法があり、計算式は下記の通りです。
・定額法の減価償却費=取得価額×償却率(定額法)
・定率法の減価償却費=帳簿価額(未償却残高)×償却率(定率法)
定額法は毎年均等に減価償却費をし、定率法は初年度に多額の減価償却費を計上するのが特徴です。
建物を減価償却する場合は建物本体と、アーケードや給排水設備などの建物付属設備を分けて、それぞれの耐用年数により減価償却を行います。
なお税制改正により、1998年(平成10年)4月1日以降に取得した建物本体と、2016年(平成28年)4月1日以降に取得した建物付属設備は、定額法により減価償却を行うことになりました。
したがって、現在では建物と建物付属設備は両方とも定額法を適用することを覚えておきましょう。
建物の減価償却費の計算で必要な項目
建物の減価償却費の計算をする際には、取得価額・耐用年数・償却率の項目の理解が必要です。
それぞれの項目の意味は下記の通りですので、確認しておきましょう。
- 取得価額:建物を取得するためにかかった費用のことです。売買契約書や固定資産税評価額などから把握します。
- 耐用年数:建物が使用できる期間を定めたもので、一般的には税法で決められた法定耐用年数を指します。耐用年数の期間をもとに、減価償却費を分割して費用化します。
- 償却率:耐用年数ごとに決められた減価償却費を算出するための割合のことです。建物の減価償却費を算出する際は、取得価額×償却率の計算式を用います。また、償却率は国税庁のホームページから取得可能です。
2007年の税制改正前後での計算方法の違い
建物の減価償却費の計算で気を付けるべきなのが、2007年(平成19年)の税制改正前後での計算方法の違いです。
2007年(平成19年)4月1日以降に取得した建物で、定額法で減価償却費を計算する場合は下記の計算式を用います。
建物の減価償却費=取得価額×償却率(定額法)
一方、2007年(平成19年)3月31日以前に取得した建物の減価償却費を計算する際に使用する償却率は、旧定額法と呼ばれます。
旧定額法を用いて減価償却費を計算する場合は、下記の計算式になります。
建物の減価償却費=取得価額×90%×償却率(旧定額法)
計算式も償却率も異なるため、減価償却費を算出する際はとくに注意をしてください。
建物の減価償却費計算の必須項目である「取得価額」について
ここでは、建物の減価償却費の計算を行うために必須項目の「取得価額(取得費)」について、特徴や確認方法、また算出方法などを解説していきます。
建物の取得価額の特徴
建物の取得価額は、購入代金や建築代金以外の仲介手数料なども含められる特徴を持っています。
建物の取得価額に含められるものの主な例は下記の通りなので、確認しておいてください。
・建物の購入代金(もしくは建築代金)
・不動産取得税や印紙税などの税金
・仲介手数料
・測量費
・建物の取り壊し費用
・一定の借入利子
取得価額の確認方法
売買契約書や工事請負契約書などの契約書から、建物の取得価額の確認が可能です。
ただし、契約書を紛失してしまったケースや、契約書に建物と土地の取得価額の内訳が記載されていないケースなどにより取得価額が不明な場合は、取得価額を算出する必要があります。
そこで、次の章で金額の内訳がわからない場合の取得価額の算出方法を解説します。
金額の内訳がわからない場合の取得価額の算出方法4選
建物の取得価額の金額がわからない場合は、下記で解説する4つの方法を用いて算出してください。
・固定資産税評価額をもとに算出する方法
・建物の消費税から算出する方法
・建物の標準的な建築価額から算出する方法
・不動産鑑定士に依頼して算出する方法
それぞれ解説していきます。
1.固定資産税評価額をもとに算出する方法
建物と土地の固定資産税評価額の比率で分けて、内訳の金額を算出できます。
金額の内訳を算出する際に、一般的に使われている方法といえるでしょう。
固定資産税評価額は、各市区町村の役所などで取得してください。
2.建物の消費税から算出する方法
売買契約書に記載されている消費税から、建物の取得価額を算出できます。
ただし、建物を取得した当時の消費税率を使用することに注意をしてください。
計算例は下記の通りです。
計算例:建物と土地の売買代金の総額が3,500万円で、建物の消費税率が10%で消費税額が100万円のケース
・建物の取得価額:100万円(建物の消費税額)÷10%(消費税率)=1,000万円(建物の消費税を除く金額)
・土地の取得価額:3,500万円(売買代金の総額)-1,100万円(建物の取得価額1,000万円+消費税額100万円)=2,400万円(土地の消費税込の金額)
3.建物の標準的な建築価額から算出する方法
建物の標準的な建築価額と、建物の面積を用いて算出する方法もあります。
構造別、建築年別に標準的な建築価額が載っている、建物の標準的な建築価額表を参考にして計算します。
詳しくは、下記の国税庁のホームページをご確認ください。
出典:国税庁「建物の標準的な建築価額表」
4.不動産鑑定士に依頼して算出する方法
不動産鑑定士に依頼をして、建物と土地を分けてもらう方法もあります。
ただし、不動産鑑定士への依頼料がかかることには注意が必要です。
建物の取得費に含めなくてもいい費用
仲介手数料の付随費用など、建物の取得価額に含められる費用がある一方で、登録免許税の租税公課や借入金の利子など、取得価額に含めなくても良い費用があります。
詳しくは下記の国税庁のホームページからご確認ください。
出典:国税庁「No.5400 減価償却資産の取得価額に含めないことができる付随費用」
建物の減価償却費の計算で重要な耐用年数
建物の減価償却費の計算は、耐用年数をもとに行うため、耐用年数を正しく理解することが大切です。
そこで、ここでは耐用年数の下記の5つの項目について解説していきます。
・建物の減価償却の耐用年数
・建物の耐用年数一覧表
・法定耐用年数の全てを経過している中古建物の計算
・法定耐用年数の一部を経過している中古建物の計算
・リフォームを行った場合はどうなる?
建物の減価償却の耐用年数
耐用年数は建物を使用できる期間のことで、税法により定められています。
また、建物の耐用年数は構造・用途ごとに決められており、該当する建物の耐用年数を用いて減価償却を行います。
建物の耐用年数一覧表
主な建物の耐用年数一覧表は、下記の通りです。
構造・用途 | 細目 | 耐用年数 |
木造・合成樹脂造のもの | 事務所用のもの | 24年 |
店舗用・住宅用のもの | 22年 | |
飲食店用のもの | 20年 | |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造のもの | 事務所のもの | 50年 |
住宅用のもの | 47年 | |
飲食店のもの・その他のもの | 41年 | |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 事務所用のもの | 41年 |
店舗用・住宅用・飲食店用のもの | 38年 |
出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
同じ事務所用のものでも、木造で24年、鉄骨鉄筋コンクリート造で50年と耐用年数が大きく異なります。
さらに、木造のものでも事務所用のものと、店舗用・住宅用のものでも耐用年数が異なることに注意をしましょう。
法定耐用年数の全てを経過している中古建物の計算
中古物件の耐用年数の算出は、減価償却を行う上で重要なポイントです。
法定耐用年数の全てを経過している中古建物の耐用年数の計算式は、下記の通りです。
法定耐用年数×20%=耐用年数
なお、小数点以下の端数は切り捨てで、2年未満は2年で計算します。
例えば、耐用年数が24年である木造の事務所用が、30年経過している中古建物の場合は法定耐用年数の全てを経過しているため、計算結果は24年×20%=4.8年です。
小数点以下の端数は切り捨てのため、耐用年数は4年になります。
法定耐用年数の一部を経過している中古建物の計算
法定耐用年数の一部を経過している中古建物の耐用年数の計算式は、下記の通りです。
(法定耐用年数ー経過した年数)+(経過した年数×20%)=耐用年数
例えば、ここでも耐用年数が24年である木造の事務所用の中古建物を例としましょう。
8年経過していた場合は、法定耐用年数の一部を経過しているため、計算式は下記の通りになります。
(法定耐用年数(24年)ー経過した年数(8年))+(経過した年数(8年)×20%)=16年+1.6年=17.6年
端数を切り捨てると、耐用年数は17年になります。
リフォームを行った場合はどうなる?
リフォームで行った内装工事などは、耐用年数を延長するわけではなく、老朽化した部分を原状回復したと見なされるため、修繕費として処理を行うのが一般的です。
ただし、大規模なリノベーションを行い、既存の建物の価値を高めた工事を行った場合は、資本的支出、つまり資産として減価償却を行うことになります。
注意点は、リノベーションした部分と既存の建物は分けて考え、リノベーションした部分だけで耐用年数を決めて減価償却を行う点です。
リノベーションを行ったからといって、既存の建物の耐用年数が変わったり、延長したりしないことを覚えておきましょう。
償却率で変わる建物の減価償却費の計算方法
減価償却費の計算において、償却率を理解することも大切です。
そこで、ここでは下記2点について解説していきます。
・償却率の意味や役割
・償却率は取得時期や償却方法で変わる
償却率の意味や役割
償却率は、減価償却費を算出するために耐用年数ごとに決められた割合のことです。
定額法と定率法で耐用年数ごとにそれぞれ償却率が定められており、減価償却を行う際に該当する償却率を使用します。
建物の場合は定額法で減価償却費を計算するため、定額法の中で該当する耐用年数の償却率を使用してください。
償却率は取得時期や償却方法で変わる
既に解説した通り、建物を2007年(平成19年)3月31日以前に取得した場合は旧定額法の償却率、2007年(平成19年)4月1日以降に取得した場合は、定額法の償却率を使用します。
また、建物を減価償却する際に使用する定額法と、機械装置や車両などを減価償却する際に使用する定率法では、償却率が異なります。
したがって、償却率は取得した時期や、定額法・定率法の償却方法により変わることを覚えておいてください。
建物の減価償却費の具体的な計算例
ここまで建物の減価償却費の計算方法を解説してきましたが、ここでは具体的な計算例を確認していきましょう。
解説するのは下記の2つのケースです。
・居住用新築RCマンションの減価償却費の計算
・業務用新築RCマンションの減価償却費の計算
居住用新築RCマンションの減価償却費の計算
居住用の新築RC(鉄筋コンクリート)マンションの減価償却費の計算を確認していきましょう。
居住用の新築RCマンションの耐用年数は47年、対応する定額法の償却率は0.022です。
したがって、建物の取得価額が2,500万円のケースで、減価償却費を計算した結果は下記の通りです。
2,500万円(建物の取得価額)×0.022(耐用年数47年の償却率)=55万円
業務用新築RCマンションの減価償却費の計算
続いて、業務用の新築RC(鉄筋コンクリート)マンションの減価償却費の計算を見ていきます。
業務用(事務所用)の新築RCマンションの耐用年数は50年で、対応する定額法の償却率は0.020です。
建物の取得価額を2,500万円とし、減価償却費を計算すると下記の通りになります。
2,500万円(建物の取得価額)×0.020(耐用年数50年の償却率)=50万円
以上のように、同じ鉄筋コンクリート造でも、用途が異なれば減価償却費も異なることを覚えておいてください。
減価償却累計額は減価償却費とどう違う?
減価償却累計額と減価償却費は間違えやすい用語です。
詳しく解説していきますので、間違えないように理解しましょう。
減価償却累計額と減価償却費の異なる点
減価償却累計額は、これまで計上してきた減価償却費の累計金額です。
一方、減価償却費は1年の会計期間に計上する金額のため、減価償却累計額とは計上の期間が異なります。
間接法で計上するときに減価償却累計額を用いる
減価償却累計額は、間接法で計上する際に用います。
例えば、減価償却費を50万円計上する場合、間接法の仕訳は下記の通りとなります。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 500,000円 | 減価償却累計額 | 500,000円 |
また、固定資産の勘定から直接減価償却費を差し引く、直接法があることも覚えておくとよいでしょう。
まとめ
本記事では、建物の減価償却費の計算方法を詳しく解説しました。
建物の減価償却費の計算は、定額法で行うことになっており、計算式は下記の通りです。
建物の減価償却費=取得価額×償却率(定額法)
ただし、2007年(平成19年)3月31日以前に取得した建物の減価償却費を計算するときには旧定額法を使用し、下記の計算式で減価償却費を算出します。
建物の減価償却費=取得価額×90%×償却率(旧定額法)
また、建物の減価償却費を正しく計算するために、取得価額・耐用年数・償却率の考え方を理解することが大切です。
取得価額は、建物を取得するためにかかった費用のことです。
不動産取得税などの税金や仲介手数料などの付随費用も取得価額に含めることに注意をしましょう。
耐用年数は建物が使用できる期間のことで、一般的には税法で決められた法定耐用年数を指し、耐用年数にもとづいて減価償却費を分割して費用化します。
ただし、中古の建物の場合は耐用年数を計算する必要があり、取得した時点で法定耐用年数に対して経過している年数を把握し、計算することを覚えておくとよいでしょう。
償却率は、耐用年数ごとに決められた割合のことで、減価償却費を算出するために必要なものです。
取得価額・耐用年数・償却率を正しく理解して、適切に減価償却費を計上できるようにしましょう。