減価償却費を計算する際に使用されていた残存価額は、現在では廃止され、残存簿価へと名前が変わっています。
しかし、残存価額がすでに使われていないことや、廃止された背景などを知らない人も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では残存簿価の意味や廃止された背景などを解説していきます。
また、残存価額を使用した計算方法である、旧定額法や旧定率法についても解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
残存価額とは
残存価額とは、平成19年の税制改正があるまで使われていた用語で、耐用年数が経過し、減価償却が完了した後の資産価値のことです。
時間の経過により価値が減少していく資産を減価償却資産といい、耐用年数にもとづいて減価償却を行います。
減価償却資産は減価償却を行うことで資産価値が減少していきますが、廃棄や売却しない限りは資産自体は使用できる状態で残っています。
したがって、会計上は資産価値がなくなっても、帳簿上で資産価値を残すために資産ごとに残存価額が定められていたのです。
資産ごとに決められていた残存価額は下記の通りです。
・建物・機械装置・車両運搬具などの有形固定資産:取得価額の10%
・ソフトウェア・特許権などの無形固定資産:取得価額の0%
建物や機械装置などの有形固定資産は、耐用年数後でも実物が残ります。
新品のときと比べれば機能・性能は落ちるかもしれませんが、メンテナンスなどをすればまだ利用価値があるため、残存価額が10%で設定されていました。
一方、無形固定資産は現物がないため、期限が切れてしまえば使いようがありませんので、残存価額が0%になっていまたのです。
以上のように、平成19年の税制改正があるまではそれぞれの資産に残存価額が設定され、減価償却を行っていた背景があります。
減価償却での残存価額の意味合い
平成19年に税制改正があるまでは残存価額があったものの、現在では残存簿価を使用して減価償却を行っています。
税制改正までは残存価額が10%と設定され、減価償却を最大に行おうとしても取得価額の95%までしかできませんでした。
しかし、税制改正があったことで残存簿価が登場し、減価償却を1円まで行えるようになる環境に変化します。
残存価額が廃止され、残存簿価が登場したのは、海外諸国と対等に競争を行えるように減価償却の条件を揃えようとしたことが理由の一つです。
税制改正当時、アメリカやドイツなどの海外の諸国では、日本のような残存価額の考え方がなく、減価償却を100%できることが認められていました。
また、耐用年数内で全額償却できるようにし、設備投資を促進することも、残存価額が廃止された理由の一つといえます。
残存価額が1円になる減価償却費の計算方法
年間で計上できる減価償却費のことを償却限度額と呼びますが、計算方法により償却限度額の金額が異なります。
そこで、ここでは残存価額が最終的に1円になる下記の4つの減価償却費の計算方法について、年度ごとの償却限度額を算出しながら解説していきます。
・旧定額法
・旧定率法
・定額法
・定率法
なお、旧定額法・旧定率法は、平成19年3月31日以前に取得した資産の減価償却費を求める際に使用する計算方式です。
一方、定額法・定率法は平成19年4月1日以降に取得した資産の減価償却費を求める際に使用するため、取得日により計算式の使い分けが必要なことに注意をしましょう。
また、旧定額法・旧定率法は減価償却を限度額である取得価額の95%まで進めた後に、残り5%分を翌年からの5年間で残存簿価1円まで均等に償却していきます。
なお、各計算方法の償却率は、下記の国税庁のホームページを参考にしてください。
出典:国税庁「減価償却資産の償却率等表」
旧定額法
旧定額法の計算式は下記の通りです。
償却限度額=(取得価額ー残存価額)×旧定額法の償却率
また、残存価額は取得価額の10%であったため、下記の計算式でも求められます。
償却限度額=取得価額×0.9×旧定額法の償却率
旧定額法の特徴は、取得価額の5%まで償却を終えたら、残り5%を翌年以降の5年間で均等に償却することです。
それでは、下記の具体例をもとに旧定額法の減価償却費を計算してみましょう。
- 取得価額:100万円
- 耐用年数:5年
- 償却率:0.200
経過年数ごとの減価償却費と未償却残高の推移は下記の通りです。
経過年数 | 減価償却費 | 未償却残高 | 計算式 |
1年 | 18万円 | 82万円 | 100万円×0.9×0.200 |
2年 | 18万円 | 64万円 | 100万円×0.9×0.200 |
3年 | 18万円 | 46万円 | 100万円×0.9×0.200 |
4年 | 18万円 | 28万円 | 100万円×0.9×0.200 |
5年 | 18万円 | 10万円 | 100万円×0.9×0.200 |
6年 | 5万円 | 5万円 | 100万円×0.05 ※未償却残高が取得価額の5%になったため、翌年から5年間の均等償却を実施 |
7年 | 1万円 | 4万円 | 5万円×0.2 |
8年 | 1万円 | 3万円 | 5万円×0.2 |
9年 | 1万円 | 2万円 | 5万円×0.2 |
10年 | 1万円 | 1万円 | 5万円×0.2 |
11年 | 9,999円 | 1円 | 残存簿価1円まで償却 |
5年目までは計算式の通りに算出していき、6年目で未償却残高が取得価額の5%になることが想定されるため、下記の計算式へ変わります。
6年目の償却限度額=期首帳簿価額ー(取得価額×5%)
金額を当てはめると、下記の通りです。
期首帳簿価額(100万円ー90万円)ー(取得価額(100万円)×5%)=10万円ー5万円=5万円
つまり、6年目の減価償却費は5万円になります。
そして、7年目以降の5年間で均等償却を行うため、7年目から10年目までは1万円、11年目は1円を残存簿価として残すため、9,999円の減価償却費となります。
旧定率法
旧定率法の計算式は下記の通りです。
償却限度額=期首帳簿価額×旧定率法の償却率
それでは、ここでも下記の具体例をもとに旧定率法の減価償却費を計算してみましょう。
- 取得価額:100万円
- 耐用年数:5年
- 償却率:0.369
なお、旧定率法も旧定額法と同じように、取得価額の5%まで償却を終えたら、残り5%を翌年以降の5年間で均等に償却していきます。
経過年数ごとの減価償却費の推移は下記の通りです。
経過年数 | 減価償却費 | 未償却残高 | 計算式 |
1年 | 36万9,000円 | 63万1,000円 | 100万円×0.369 |
2年 | 23万2,839円 | 39万8,161円 | 63万1,000円×0.369 |
3年 | 14万6,921円 | 25万1,240円 | 39万8,161円×0.369 |
4年 | 9万2,708円 | 15万8,532円 | 25万1,240円×0.369 |
5年 | 5万8,498円 | 10万34円 | 15万8,532円×0.369 |
6年 | 3万6,913円 | 6万3,121円 | 10万34円×0.369 |
7年 | 1万3,121円 | 5万円 | 未償却残高が取得価額の5%(5万円)まで償却※翌年から5年間の均等償却を実施 |
8年 | 1万円 | 4万円 | 5万円×0.2 |
9年 | 1万円 | 3万円 | 5万円×0.2 |
10年 | 1万円 | 2万円 | 5万円×0.2 |
11年 | 1万円 | 1万円 | 5万円×0.2 |
12年 | 9,999円 | 1円 | 残存簿価1円まで償却 |
6年目までは通常の計算式で減価償却を行い、7年目で取得価額の5%まで償却を行います。
そして、翌年から5年で残り5%分の均等償却を行い、12年目で残存簿価1円まで償却を行います。
定額法
現在使用されている定額法は、平成19年の税制改正により残存価額が廃止されました。
定額法の計算式は下記の通りです。
償却限度額=取得価額×定額法の償却率
償却率は、平成19年4月1日以降に取得した資産の償却率を使います。
ここでも、下記の具体例をもとに減価償却費を計算してみましょう。
- 取得価額:100万円
- 耐用年数:5年
- 償却率:0.200
経過年数ごとの減価償却費の推移は下記の通りです。
経過年数 | 減価償却費 | 未償却残高 | 計算式 |
1年 | 20万円 | 80万円 | 100万円×0.200 |
2年 | 20万円 | 60万円 | 100万円×0.200 |
3年 | 20万円 | 40万円 | 100万円×0.200 |
4年 | 20万円 | 20万円 | 100万円×0.200 |
5年 | 19万9,999円 | 1円 | 残存簿価1円まで償却 |
残存価額の考え方がないため、耐用年数の5年で残存簿価1円まで償却可能です。
定率法
定率法も定額法と同じように、平成19年の税制改正の影響で残存価額が廃止されました。
定率法の計算式は下記の通りです。
償却限度額=期首帳簿価額×定率法の償却率
下記の具体例で減価償却費を求めてみましょう。
- 取得価額:100万円
- 耐用年数:5年
- 償却率:0.400
- 改定償却率:0.500
- 保証率:0.10800
定率法の注意点は、改定償却率と保証率があることです。
上記の計算式で求めた減価償却費が、取得価額と保証率をかけた償却保証額を下回った場合、改定償却率に切り替えて計算を行います。
経過年数ごとの減価償却費の推移は、下記の通りです。
経過年数 | 減価償却費 | 未償却残高 | 計算式 |
1年 | 40万円 | 60万円 | 100万円×0.400 |
2年 | 24万円 | 36万円 | 60万円×0.400 |
3年 | 14万4,000円 | 21万6,000円 | 36万円×0.400 |
4年 | 10万8,000円 | 10万8,000円 | 21万6,000円×0.500 ※減価償却費が償却保証額を下回ったため、改定償却率に切り替えて計算 |
5年 | 10万7,999円 | 1円 | 残存簿価1円まで償却 |
上記の条件での償却保証額は、取得価額(100万円)×保証率(0.10800)で10万8,000円になります。
計算式通りに減価償却費を計算していくと、4年目で減価償却費が8万6,400円(21万6,000円×0.400)となり、減価償却費が償却保証額(10万8,000円)を下回ります。
したがって、4年目の減価償却費の計算から改定償却率を使用することに注意をしましょう。
そして、耐用年数5年目に残存簿価1円まで償却を行い、減価償却が完了します。
残存価額1円資産の除却方法と仕訳
残存価額1円の資産は、事業で使用することがなくなり、将来的にも使用しないと見込まれたときに除却を行うことで、固定資産台帳から落とせます。
そこで、ここでは残存価額1円の資産の除却をする際に行う仕訳について、直接法と間接法のそれぞれのケースで解説します。
直接法での仕訳方法
直接法は、減価償却費を直接固定資産から差し引く方法です。
直接法で除却をする場合は、固定資産の勘定を用いて、1円の残存価額を消去する必要があります。
・仕訳例
直接法により、取得価額200万円、残存価額1円のフォークリフト(車両運搬具)を除却した。
借方 | 貸方 | ||
固定資産除却損 | 1円 | 車両運搬具 | 1円 |
間接法での仕訳方法
間接法は、直接法のように固定資産から直接減価償却費を差し引かずに、減価償却累計額の勘定科目を用いて仕訳をする方法です。
間接法で減価償却費を計上している場合、固定資産の科目に取得価額が計上され、減価償却累計額に今まで計上してきた減価償却費の合計金額が計上されていることになります。
したがって、除却する場合は取得価額と減価償却累計額の両方を消去する必要があります。
・仕訳例
間接法により、取得価額200万円、残存価額1円のフォークリフト(車両運搬具)を除却した。
借方 | 貸方 | ||
固定資産除却損 | 1円 | 車両運搬具 | 2,000,000円 |
減価償却累計額 | 1,999,999円 |
残存価額1円資産を除去できない場合
たとえ残存価額が1円であっても、事業で使用中の固定資産は除去できません。
なぜなら、残存価額1円を残すことで事業で使用していることを表す必要があるためです。
事業で使用していて、資産が残っていることを忘れないように、あえて1円などの少額で設定する金額を備忘価額と呼びます。
したがって、減価償却が終わったとしても1円の残存価額は備忘価額として残し、除却しないようにしてください。
取得価額10万円未満の場合は減価償却不要?
減価償却は取得価額が10万円以上のときに行うため、10万円未満の場合は減価償却は不要です。
また、取得価額が20万円未満と30万円未満の場合で処理方法が変わるなど、減価償却を行う上での金額基準を覚えておく必要があります。
そこで、ここでは下記の4つのケースについて解説します。
・【10万円未満】全て経費計上
・【10万円以上】原則減価償却が必要
・【10万円~20万円】一括償却資産で処理可能
・【30万円未満】少額減価償却資産で処理可能
また、上記の4つのケースをまとめたのが下記の表です。
取得価額 | 10万円未満 | 10万円以上 | 10万円以上20万円未満 | 10万円以上30万円未満 |
処理方法 | 全て経費 | 原則減価償却 | 一括償却資産 | 少額減価償却資産 |
固定資産台帳の登録 | 必要なし | 取得単位で登録 | 会計年度の合計金額で登録 | 取得単位で登録 |
それぞれ解説しますので、減価償却の理解を深めましょう。
【10万円未満】全て経費計上
取得価額が10万円未満であれば、全て経費で計上できます。
また、経費で計上できるため固定資産台帳への登録も必要ありません。
経費で計上するときに使用する勘定科目は、消耗品費や雑費などが一般的であることも覚えておくとよいでしょう。
【10万円以上】原則減価償却が必要
取得価額が10万円以上であれば、原則減価償却が必要です。
取得した固定資産ごとに耐用年数を決め、減価償却を行います。
また、取得した固定資産の単位で固定資産台帳への登録が必要なことも覚えておきましょう。
【10万円~20万円】一括償却資産で処理可能
取得価額が10万円以上20万円未満であれば、一括償却資産で処理が可能です。
一括償却資産で処理を行うと、取得した固定資産の耐用年数にかかわらず、3年間の均等償却ができます。
さらに、会計年度の合計金額で固定資産台帳への登録ができるため、節税や業務量軽減の観点からもメリットの多い処理方法といえます。
なお、一括償却資産の処理は、会社の規模にかかわらず、大企業でも中小企業でも処理ができることも覚えておくとよいでしょう。
【30万円未満】少額減価償却資産で処理可能
取得価額が10万円以上30万円未満であれば、少額減価償却資産の特例を利用することで、取得した資産の取得価額を取得した年度に一括で全額償却できます。
ただし、特例を適用するには青色申告をしていて、資本金または出資金が1億円以下の法人であるなどの条件があります。
国税庁のホームページで最新の情報を確認し、特例が適用できるかの確認をしてみてください。
まとめ
本記事では、減価償却費の残存価額について解説しました。
残存価額は、耐用年数が経過し、減価償却が完了した後の資産価値のことです。
資産ごとの残存価額は下記の通りです。
・建物・機械装置・車両運搬具などの有形固定資産:取得価額の10%
・ソフトウェア・特許権などの無形固定資産:取得価額の0%
有形固定資産は10%の残存価額がありますが、無形固定資産は現物がないために期限が切れてしまえば使えないため、残存価額が0%になります。
ただし、海外諸国と対等に競争を行えるように減価償却の条件を揃えるなどの理由から、平成19年の税制改正で廃止され、現在では残存簿価が使用されています。
旧定額法・旧定率法では残存価額の考え方が残っていますが、現在使われている定額法・定率法では残存価額の考え方はなく、残存簿価1円まで償却することを覚えておいてください。
残存価額と残存簿価の考え方を理解し、適切な計算方法で減価償却を行いましょう。