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減価償却費を計上しないとどのような影響が出るのかを具体例とともに解説

減価償却費 計上しない

法人の場合、減価償却を行うことは任意のため、減価償却費を計上しない選択もできます。

しかし、一般的には減価償却費を行うことが多いため、減価償却費を計上しないとどのような影響があるか知らない人も多いことでしょう。

そこで、本記事では減価償却費を計上しないと、どのような影響が出るのかを具体例とともに解説します。

減価償却費を計上しないことによる影響を知りたい人は、ぜひ最後までお読みください。

目次

減価償却とは

減価償却とは、固定資産を取得するためにかかった費用を、耐用年数により分割して費用化する会計処理です。

例えば、マンション経営をしているケースを考えてみましょう。

マンションの取得費用が6,000万円で家賃収入が400万円だった場合、マンションの購入費用を一括で経費計上してしまうと、どうなってしまうでしょうか?

損益が▲5,600万円の赤字(400万円ー6,000万円)となり、収益と費用が対応していない状況になってしまうため、減価償却の処理が必要になります。

マンションの耐用年数が30年とすると、1年間の減価償却費は200万円となるため、家賃収入400万円を考慮すると、損益は200万円(400万円ー200万円)の黒字です。

以上のように、収益と費用を対応させるために、耐用年数に応じて固定資産の取得価額を費用として処理していくことを減価償却といいます。

減価償却の対象となる資産について

減価償却の対象となるのは、取得価額が10万円以上で、使用できる期間が1年以上の資産です。

時間の経過により価値が減少していくと考えられる、建物や機械装置、工器具備品などが減価償却の対象で、減価償却を行う資産を減価償却資産といいます。

なお、土地や骨董品は会計上では価値が減少しないと考えられています。

したがって、土地や骨董品は減価償却を行わないため、減価償却資産に該当しないことを覚えておきましょう。

また、減価償却の対象になる金額基準は取得価額10万円以上ですが、固定資産の取得価額が消費税を含むかどうかは、自社が税込経理方式と税抜経理方式のどちらを採用しているかで判断してください。

例えば、税抜金額が95,000円の事務用品を購入した場合、税抜経理方式を採用している場合は税抜で10万円未満のため、減価償却を行わずに一括で経費計上できます。

一方で税込経理方式を採用している場合、税抜金額95,000円を税込金額にすると10万4,500円となり10万円以上になるため、減価償却が必要になることに注意をしましょう。

減価償却を行う上で把握しておきたい項目

減価償却を行う上で把握しておきたい項目は、下記の通りです。

どれも重要な項目のため、1つずつ確認しておいてください。

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項目意味
減価償却資産減価償却を行う資産のことで、建物や機械装置などの時間の経過により価値が減少する資産のことを指す。
償却方法一般的には主に定額法と定率法のことを指すことが多い。ほかには生産高比例法などもある。
法定耐用年数税法により定められた固定資産を使用できる期間。
償却率法定耐用年数ごとに決められた割合。
取得価額固定資産を取得するためにかかった費用のこと。購入手数料や試運転費などの付随費用も含まれる。
減価償却累計額これまでに減価償却を行った金額の合計額。
未償却残高まだ償却を行っていない帳簿価額。取得価額から減価償却累計額を差し引くことで求められる。
償却資産税償却している固定資産に課される税金。毎年1月1日に所有している償却資産を償却資産のある自治体に申告し、税金を納める。
事業の用に供した日事業のために固定資産の使用を開始した日、つまり減価償却を開始する日のこと。

減価償却費を計上しないことによる影響とは?

法人は減価償却の実施については任意ですが、減価償却費を計上しない場合、企業にどのような影響があるのでしょうか?

考えられる影響は下記の4つです。

・税額が増える
・損益が不明瞭になる
・キャッシュフローの悪化につながる
・銀行の融資上で問題が出ることがある

1つずつ解説していきます。

税額が増える

減価償却費を耐用年数にもとづいて計上することで、法人税の計算根拠となる課税所得が減るため法人税額が減り、長期的な節税効果を受けられることになります。

したがって、減価償却を行わないと利益が増えて、支払う法人税が増えることに注意が必要です。

なお、欠損金は繰り越せるため、赤字決算であっても減価償却費を計上するとよいでしょう。

損益が不明瞭になる

減価償却を行わないことで、費用と収益が対応せずに本来の損益が不明瞭になってしまいます。

したがって、費用と収益を対応させるために減価償却を行い、減価償却費を考慮した状態で損益計算を行い、利益が出ているかどうかを確認するとよいでしょう。

キャッシュフローの悪化につながる

減価償却費は現金の支出を伴わない会計処理のため、キャッシュフロー上ではプラスの項目として扱うため、減価償却を行わないとキャッシュフローの悪化につながります。

また、減価償却を行わないと法人税額が増えることで現金が出ていってしまうことも、キャッシュフローの悪化につながっているといえます。

銀行の融資上で問題が出ることがある

銀行の融資を受ける際には、決算書や税務の申告書などを提出することになるため、減価償却を行っているかどうかはすぐに分かります。

もし、業績を良く見せようとして減価償却を行わなかった場合は、決算書の信頼性を失ってしまう恐れがあるといえるでしょう。

また、減価償却は現金の支出を伴わない会計処理のため、減価償却費の金額が分からないと、審査をする銀行側で正しいお金の流れを把握できません。

したがって、法人は減価償却の実施は任意ですが、融資を受けるときのことを考えて減価償却を行った方が良いといえるでしょう。

減価償却費を計上しないという選択

法人は減価償却を行うかは任意のため、減価償却を計上しないという選択も可能です。

ただし、減価償却費を計上するかどうかは、当期の損益を考慮しての判断が多く、翌期以降の損益を考慮していない場合が多いのではないでしょうか。

そこで、ここでは下記の2つのケースを想定し、それぞれのケースで当期だけではなく、翌期以降の損益も考えていきます。

・赤字になりそうなので減価償却費を計上しなかった場合
・赤字額を減少するために減価償却費を計上しなかった場合

赤字になりそうなので減価償却費を計上しなかった場合

まずは、赤字になりそうなので、当期に減価償却費を計上しなかった場合を考えていきましょう。

なお、減価償却費と法人税の比較を行うために、減価償却費を計上した場合と比較した結果についても解説していきます。

また、検証する固定資産の条件を下記の通りとし、中小企業で青色申告をしているケースとします。

・償却方法:定額法
・対象の固定資産:器具備品のサーバー用事務機器
・取得価額:300万円
・耐用年数:5年
・償却率:0.200
・年間の減価償却費:60万円
・法人税の算出条件:法人税率23%に加えて、地方税の均等割7万円

※地方税の均等割は、業績に関係なく企業の規模によりかかる税金のこと。

当期に減価償却費を計上しなかった場合の比較表

当期(★1年3月期)に、減価償却費を計上しなかった場合の損益計算書と簡易的な税額計算表は下記の通りとなります。

・損益計算書と簡易的な税額計算表

スクロールできます
単位:万円★1年3月期★2年3月期★3年3月期3年合計
売上高1,2001,4001,600
売上原価720840960
減価償却費06060
販管費300320360
営業外費用150100120
特別利益25105
税引前当期純利益5590105
繰越欠損金000
課税所得5590105
法人税等※法人税率23%、地方の均等割7万円20283179
翌期繰越欠損金000

もし、★1年3月期に減価償却費60万円を計上してしまうと、税引前当期純利益が▲5万円(税引前当期純利益55万円ー減価償却費60万円)の赤字になってしまいます。

そこで、税引前当期純利益の赤字を防ぐために★1年3月期には減価償却費を計上しないことにしたのが、上記の損益計算書と簡易的な税額計算表です。

3期合計で、79万円の法人税の支払いをすることになります。

当期に減価償却費を計上した場合の比較表

続いて、税引前当期純利益が赤字になりますが、減価償却費を★1年3月期に計上したのが下記の表です。

・損益計算書と簡易的な税額計算表

スクロールできます
単位:万円★1年3月期★2年3月期★3年3月期3年合計
売上高1,2001,4001,600
売上原価720840960
減価償却費606060
販管費300320360
営業外費用150100120
特別利益25105
税引前当期純利益-590105
繰越欠損金0-50
課税所得-585105
法人税等※法人税率23%、地方税の均等割7万円7273165
翌期繰越欠損金-500

60万円の減価償却費を計上することで、税引き前当期純利益は▲5万円の赤字になります。

また、当期の★1年3月期の法人税は、業績に関係なく納める地方税の均等割7万円を計上し、欠損金を翌期に繰り越すことになります。

3期合計で支払う法人税は、65万円です。

比較結果と差分

減価償却費を計上しなかったケースと減価償却費を計上したケースの法人税額を比べると、減価償却費を計上しなかったケースの方が14万円(79万円ー65万円)多い結果となりました。

14万円の内容は、当期の★1年3月期の法人税額です。(減価償却費60万円×法人税率23%)

法人税の支払いが14万円多くなってしまいますが、経営者からすると税引前当期純利益を赤字にしたくない気持ちが働くことが考えられます。

そのため、減価償却費を抑えれば赤字を回避できて黒字になると分かれば、減価償却費を計上しない選択をする経営者が多いと思われます。

なお、減価償却限度額(当期で減価償却費を計上できる限度の金額)の範囲、例えば本ケースの場合55万円までの減価償却費を計上すれば、黒字を維持できて法人税の節税も可能です。

赤字額を減少するために減価償却費を計上しなかった場合

続いて、減価償却費の金額に関わらず税引前当期純利益が赤字のケースにおいて、赤字額を減少するために減価償却費を計上しなかった場合と、計上した場合を考えてみましょう。

なお、減価償却費を計上するための前提条件は、前の章と同じとします。

当期に減価償却費を計上しなかった場合の比較表

当期(★1年3月期)に減価償却費を計上しなかった場合の損益計算書と簡易的な税額計算表は、下記の通りとなります。

・損益計算書と簡易的な税額計算表

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単位:万円★1年3月期★2年3月期★3年3月期3年合計
売上高1,1001,4001,600
売上原価700840960
減価償却費06060
販管費320320340
営業外費用150100120
特別利益25105
税引前当期純利益-4590125
繰越欠損金0-450
課税所得-4545125
法人税等※法人税率23%、地方の均等割7万円7173660
翌期繰越欠損金-4500

減価償却費の60万円を計上すると赤字が拡大してしまうため、赤字を少なくするために減価償却費を計上しないケースです。

当期の★1年3月期では減価償却費を計上していませんが、税引前当期純利益が▲45万円の赤字となっています。

欠損金を繰り越すことで★2年3月期の法人税を小さく抑えられ、3期合計での法人税は60万円となります。

当期に減価償却費を計上した場合の比較表

次に、赤字は拡大してしまいますが、当期に減価償却費を計上した場合を考えてみましょう。

損益計算書と簡易的な税額計算表は下記の通りです。

・損益計算書と簡易的な税額計算表

スクロールできます
単位:万円★1年3月期★2年3月期★3年3月期3年合計
売上高1,1001,4001,600
売上原価700840960
減価償却費606060
販管費320320340
営業外費用150100120
特別利益25105
税引前当期純利益-10590125
繰越欠損金0-105-15
課税所得-105-15110
法人税等※法人税率23%、地方の均等割7万円773246
翌期繰越欠損金-105-150

上記のケースでは、減価償却費にかかわらず税引前当期純利益が赤字の状況で、減価償却限度額まで減価償却費を計上しています。

当期の★1年3月期の赤字分を欠損金として★2年3月期に繰り越しますが、▲15万円の欠損金が残るため、さらに★3年3月期へ欠損金を繰り越すことになります。

3期合計の法人税額は、46万円です。

比較結果と差分

上記で挙げた2つのケースを比べると3期合計で14万円の差が発生します。

14万円の内容は、減価償却費60万円×23%です。

減価償却費を計上しなくても赤字であり、また赤字を欠損金として繰り越して控除できるため、赤字が拡大することを許容できれば減価償却費を計上する判断にしてもよいといえるでしょう。

まとめ

本記事では、減価償却費を計上しないとどのような影響が出るのかを解説しました。

減価償却費を計上しないと、下記の影響が出ることになります。

・税額が増える
・損益が不明瞭になる
・キャッシュフローの悪化につながる
・銀行の融資上で問題が出ることがある

また、本記事では減価償却費を計上しない選択をした場合を想定して、下記の2つのケースでそれぞれ具体例をあげて解説しました。

・赤字になりそうなので減価償却費を計上しなかった場合
・赤字額を減少するために減価償却費を計上しなかった場合

減価償却費を計上しないと上で挙げた影響が出ますが、法人の場合は減価償却費を計上しないことも選択肢の一つです。

減価償却費を計上しないことの影響を考慮して、戦略的に減価償却費を計上するかどうかを決めていくとよいでしょう。

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