減価償却は、損益計算を正しく行うために必要な会計処理です。
しかし、1年間に計上する減価償却費の計算方法を知っていても、減価償却費を月割で計算する方法を知らない人は多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では減価償却費を月割で計算する方法を具体例と共に解説していきます。
減価償却費の日割り計算の考え方や、減価償却費の基礎知識についても解説していきますので、ぜひ最後までお読みください。
減価償却とは
減価償却とは、固定資産を取得するためにかかった購入価格を、耐用年数をもとにして年度ごとの費用として分割して計上する会計処理のことです。
機械装置や車両運搬具、建物など時間が経過するにつれて価値が減少する資産を減価償却資産といい、減価償却を行い費用を分割して計上することで価値を減少させます。
なお、会計上で価値が下がらないと考えられている土地は、減価償却を行わないことに注意をしましょう。
減価償却のメリット
減価償却のメリットとして、下記の3つが挙げられます。
・損益を正しく把握できる
・資産が手元に残る
・節税ができる
減価償却を行う理由を理解するのは大事なことのため、それぞれ確認していきましょう。
損益を正しく把握できる
減価償却を行うことで、費用収益対応の原則に沿って損益を正しく把握できます。
費用収益対応の原則とは、費用と収益を対応させて損益計算を正しく行うための会計上のルールです。
例えば、サーバー用のパソコンの耐用年数は5年と定められており、サーバー用のパソコンを購入したことで今後5年間は利益が発生すると考えられます。
したがって、利益が発生する5年間は費用も計上する必要があるため、減価償却を行うことで費用と収益が対応できることになります。
資産が手元に残る
減価償却は会計上の費用として計上しますが、現金つまり資産は出ていきません。
したがって、資産を手元に残しながら減価償却を行えることになります。
節税ができる
減価償却費を計上すると、費用が増えて利益が減ります。
したがって、利益を根拠にして計算をする法人税も減ることになるため、節税が可能です。
資産ごとの耐用年数にもとづき適切に減価償却を行うことで、長期的に節税効果を得るようにしましょう。
減価償却費の月割での計算方法
減価償却資産を年度の途中で取得して償却を開始した場合、減価償却費を月割で計算して計上する必要があります。
例えば、12月決算の企業で8月から償却を開始する場合は、8月から12月までの5か月分の減価償却費を計上することになります。
また、法人と個人事業主では、原則として減価償却費の計算方法が異なるので注意が必要です。
法人と個人事業主が用いる減価償却費の計算方法をまとめた表は、下記の通りです。
分類 | 資産の種類・減価償却費の計算方法 |
法人 | 建物・建物付属・構築物:定額法 上記以外の資産:定率法 |
個人事業主 | 資産の種類にかかわらず定額法 |
ただし、法人も個人事業主も上記以外の方法で減価償却費の計算を行いたい場合は、管轄の税務署に届け出ることで可能になることを覚えておいてください。
それでは、定額法と定率法のそれぞれにおいて、減価償却費の月割計算をする方法を確認していきましょう。
定額法を使った計算式
定額法を使って月割計算を行う場合は、下記の計算式を用います。
減価償却を開始した年度の減価償却費=取得価額×定額法の償却率×(計上月数÷12)
年間の減価償却費を求めた後に「×(計上月数÷12)」の計算を追加することで、当該年度で計上すべき月数分の減価償却費を計算できます。
定率法を使った計算式
次に、定率法を使って減価償却費の月割計算を行うケースを考えてみましょう。
定率法の場合は、下記の計算式を用います。
減価償却を開始した年度の減価償却費=未償却残高×定率法の償却率×(計上月数÷12)
定率法でも定額法と同じように、年間の減価償却費を求めてから「×(計上月数÷12)」の計算を追加し、当該年度で計上する月数分の減価償却費を求めることになります。
購入タイミングで変わる減価償却費の計算
減価償却費の計算を行う際は、購入タイミングにより減価償却費の計算が変わることに注意をしなければなりません。
また、減価償却費の計算を行う上で知っておくべき項目もあるため、ここでは下記の4つの項目を解説していきます。
・計算するために必要な3つの数字
・期首から資産を取得している場合
・期中に資産を取得した場合
・償却率を計算して使用する場合(定額法のみ)
なお、この章で挙げる例は減価償却費の計算を定額法、仕訳を間接法で会計処理を行う前提で解説していきます。
計算するために必要な3つの数字
減価償却費を計算する際は、取得価額・残存価額・耐用年数の3つの数字について理解しておくことが必要です。
それぞれの意味は下記の通りのため、確認しておきましょう。
・取得価額:固定資産を購入するためにかかった金額。仲介手数料や不動産取得税などの付随費用も含まれる。
・残存価額:耐用年数が経過したあとに残った資産価値。ただし残存価額は平成19年の税制改正まで使用されていたもので、現在では廃止されて「残存簿価」が使用されている。
・耐用年数:固定資産の使用できる期間。一般的には税法で決められた年数を使用する。
期首から資産を取得している場合
期首から資産を取得して償却を開始した場合、1年間分の減価償却費を計上するため、月割の計算は必要ありません。
したがって、定額法であれば「取得価額×定額法の償却率」の計算式で減価償却費を求めます。
それでは、具体例を挙げて減価償却費の計算方法と仕訳を考えていきましょう。
減価償却費の計算を行う前提を下記の通りとします。
・耐用年数5年の検査工具を取得
・取得価額は200万円
・定額法の償却率は0.200
・決算期は4月1日から3月31日まで
・減価償却開始は4月
減価償却費の計算を行うと、下記の通りとなります。
取得価額(200万円)×定額法の償却率(0.200)=40万円
ここで挙げた減価償却費の計算の前提は、減価償却開始が4月で、決算が4月から始まる企業です。
したがって、1年間分の減価償却費用を計上するため月割計算の必要はありません。
また、減価償却費を計上する仕訳は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 400,000円 | 減価償却累計額 | 400,000円 |
期中に資産を取得した場合
続いて、期中に資産を取得して償却を開始したケースを考えてみましょう。
減価償却費は月割計算が必要なため、当該年度に計上すべき月数分の減価償却費を計算する必要があります。
減価償却費の月割計算をする際の計算式は、下記の通りです。
減価償却を開始した年度の減価償却費=取得価額×定額法の償却率×(計上月数÷12)
ここでも、具体例を挙げながら減価償却費の計算方法と仕訳を考えていきます。
期中で減価償却を開始するケースの前提条件を下記の通りとします。
・耐用年数5年の検査工具を取得
・取得価額は200万円
・定額法の償却率は0.200
・決算期は4月1日から3月31日まで
・減価償却開始は1月
減価償却費の計算式は下記の通りです。
取得価額(200万円)×定額法の償却率(0.200)×(計上月数(3)÷12)=10万円
上記のケースの場合、決算期は4月1日から3月31日までで、1月から減価償却を開始しているため、1月から3月の3か月分の減価償却費の計上が必要です。
したがって「×(計上月数(3)÷12)」の計算を行うことで、3か月分の減価償却費の計算をしています。
また、減価償却費を計上する仕訳は下記の通りとなります。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 100,000円 | 減価償却累計額 | 100,000円 |
償却率を計算して使用する場合(定額法のみ)
減価償却費を計算するには償却率を使用しますが、定額法の場合に限り償却率を自分で計算して求められます。
償却率の計算式は下記の通りです。
1÷耐用年数=償却率
例えば、耐用年数4年のフォークリフトの償却率を計算すると、下記の計算式になります。
1÷耐用年数(4)=償却率(0.250)
定額法で減価償却を行う場合は、償却率は計算して算出できることを覚えておくとよいでしょう。
月途中で資産を取得した場合の取り扱い方
年度の途中で固定資産を取得し、減価償却を開始する場合、減価償却費は月割りでの計算が必要と解説しました。
もし、月途中に固定資産を取得して減価償却を行う場合、当月の何日に取得しても当月分は1か月としてカウントし、日割計算は行わないことに注意をしましょう。
例えば、減価償却を開始するのが5月1日と5月25日のケースがあった場合、日割計算はしないため、2つのケースとも5月の1か月分の減価償却費を計上する必要があります。
減価償却の開始が月の前半でも後半でも、当月の減価償却費を計上する必要があることを覚えておきましょう。
減価償却費を月割で計算する具体例
この章では、減価償却費を月割で計算する方法を具体例と共に解説していきます。
定額法と定率法のそれぞれのケースで解説していきますので、確認していきましょう。
定額法を使った計算の具体例
定額法を使った計算の具体例から解説していきます。
下記のケースで減価償却費を月割で計算する方法を考えてみましょう。
・耐用年数4年のフォークリフトを取得
・取得価額は150万円
・定額法の償却率は0.250
・決算期は4月1日から3月31日まで
・減価償却開始日は12月15日
定額法の計算式に当てはめて、減価償却を開始した初年度の減価償却費を計算していきます。
計算式は下記の通りです。
取得価額(150万円)×定額法の償却率(0.250)×(計上月数(4)÷12)=12万5,000円
年間の減価償却費は「取得価額(150万円)×定額法の償却率(0.250)」で計算し、37万5,000円と算出できます。
そして、減価償却開始日が12月15日となっていますが、減価償却費は日割計算は行いません。
12月15日が償却開始日であれば、12月の1か月分の減価償却費を計上する必要があるため、上記のケースでは、12月から3月までの4か月分の減価償却費の計上が必要です。
したがって、12月から3月までの4か月分の減価償却費の計上をするために「×(計上月数(4)÷12)」も含めて計算をすると、12万5,000円が求められます。
また、算出した減価償却費を計上する仕訳を間接法であらわすと、下記の通りになります。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 125,000円 | 減価償却累計額 | 125,000円 |
なお、翌年は12か月分の1年間分の減価償却費を計上するため、月割計算の必要がないことに注意をしましょう。
定率法を使った計算の具体例
続いて、定率法を使った計算の具体例を解説していきます。
ここでも、下記のケースで減価償却費を月割で計算する方法を考えてみます。
・耐用年数4年のフォークリフトを取得
・取得価額は150万円
・定率法の償却率は0.500
・決算期は4月1日から3月31日まで
・減価償却開始日は12月15日
定額法の具体例と比較するため、償却率以外は同じ前提条件で計算してみましょう。
定率法の計算式に当てはめて、減価償却を開始した初年度の減価償却費を計算した結果は下記の通りです。
未償却残高(150万円)×定率法の償却率(0.500)×(計上月数(4)÷12)=25万円
定率法は初年度に多額の減価償却費を計上する特徴があるため、定額法と比べると金額が大きくなっています。
まず、年間の減価償却費を求めるために「取得価額(150万円)×定額法の償却率(0.500)」を計算して、75万円を算出しましょう。
そして、12月から3月までの4か月分の減価償却費を算出するために「×(計上月数(4)÷12)」を含めて計算すると、25万円と求められます。
また、算出した減価償却費を計上するために、間接法で仕訳をした結果が下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 250,000円 | 減価償却累計額 | 250,000円 |
なお、翌年の減価償却費を求める際は、取得価額(150万円)から初年度に計上した減価償却費(25万円)を引いた未償却残高に、定率法の償却率を掛けて求めます。
定率法は、定額法とは異なり、減価償却費の計算に未償却残高を用いることに注意をしましょう。
まとめ
本記事では、減価償却費を月割・日割りで計算する方法について具体例と共に詳しく解説しました。
減価償却とは、固定資産を取得するのにかかった購入価格を、耐用年数をもとにして各年度の費用として分割して計上する会計処理のことで、下記の3つのメリットがあります。
・損益を正しく把握できる
・資産が手元に残る
・節税ができる
また、減価償却費を月割で計算する際、定額法の計算式は下記の通りです。
減価償却を開始した年度の減価償却費=取得価額×定額法の償却率×(計上月数÷12)
次に、定率法で月割計算をしたときの計算式は下記の通りです。
減価償却を開始した年度の減価償却費=未償却残高×定率法の償却率×(計上月数÷12)
定額法でも定率法でも、減価償却費を計上する際は上記の計算式のように月割で計算をすることを覚えておきましょう。
なお、減価償却費の日割り計算は行いません。
月途中で減価償却を開始する際は、当月の何日であっても当月1か月分の減価償却費の計上が必要がです。
減価償却費は日割りで計算を行わず、月割で計算することを意識し、適切に減価償却費を計上しましょう。