「マンションの減価償却費はどのように計算すればよいのだろう?」
「マンションの減価償却を行うときは、何に注意をしたらよいのだろう?」
このようにお悩みではないでしょうか?
マンションの減価償却費は構造により耐用年数が異なる上、新築と中古で減価償却費を算出する流れが異なるため、マンションの減価償却費の計算を難しく感じる人も多いことでしょう。
そこで、本記事ではマンションの減価償却費の計算方法を具体例とともに解説します。
マンションの減価償却や法定耐用年数の考え方などの基礎知識についても解説しますので、ぜひ最後までお読みください。
マンションの減価償却について
まずは、マンションの減価償却について理解を深めるために、下記の3つの項目を解説していきます。
・減価償却とは
・マンションを減価償却できる対象箇所は?
・マンションの減価償却費の計算は定額法を使用
減価償却とは
減価償却とは、耐用年数にもとづき、固定資産を取得するためにかかった費用を分割して計上することです。
例えば、1,000万円で購入したマンションは、購入初年度に1,000万円の費用を一括で経費として計上せずに、耐用年数に応じて減価償却を行うことになります。
減価償却に関係する主な重要用語は下記の通りなので、確認しておきましょう。
用語 | 意味 |
減価償却費 | 減価償却を行い、経費を計上する際に使用する勘定科目。 |
減価償却累計額 | これまでに計上した減価償却費の合計額。 |
減価償却資産 | 建物や機械装置などの時間の経過とともに価値が減少する資産で、減価償却を行う固定資産のこと。 |
償却方法 | どのように減価償却を行うかを定めたもので、一般的には定額法か定率法のどちらかを指す。 |
取得価額 | 固定資産を取得するためにかかった費用。購入手数料などの付随費用も含めることに注意が必要。 |
法定耐用年数 | 税法により定められている固定資産の使用できる期間のこと。 |
償却率 | 法定耐用年数ごとに定められた割合。 |
未償却残高 | まだ減価償却が行われていない帳簿価額のこと。 |
事業の用に供した日 | 事業のために固定資産の使用が開始された日、すなわち減価償却を開始した日のこと。 |
マンションを減価償却できる対象箇所は?
マンションを減価償却できる対象箇所は、建物本体と付帯設備です。
マンションの付帯設備は、電気設備や給排水設備などの建物付属設備に分類される固定資産のことで、減価償却ができることを覚えておくとよいでしょう。
ただし、土地は会計上で価値が減少しないと考えられているため、減少償却ができないことには注意をしてください。
マンションの減価償却費の計算は定額法を使用
減価償却を行うには、一般的には定率法と定額法が使用されますが、マンションの減価償却費の計算には定額法を使用します。
なぜなら、税法上で建物は定額法で減価償却を行うことが決められているからです。
定額法は毎年均等に減価償却を行う特徴を持っているため、マンションの減価償却を行うと毎年同額の減価償却費を経費として計上することになります。
また、上述の通り土地の減価償却はできませんが、電気設備などの付帯設備は減価償却ができることを覚えておきましょう。
マンションの法定耐用年数
法定耐用年数は、マンションの減価償却費の金額を決めるための重要な項目です。
そこで、マンションの法定耐用年数を考える上で知っておくべきこととして、下記の3つを解説していきます。
・構造による法定耐用年数の違い
・主な付帯設備の法定耐用年数
・マンション経営する際の法定耐用年数のリスク
構造による法定耐用年数の違い
マンションは、構造により法定耐用年数が違います。
構造ごとに住宅用の建物の法定耐用年数をまとめた表は、下記の通りです。
構造 | 法定耐用年数 |
木造・合成樹脂造のもの | 22年 |
木骨モルタル造のもの | 20年 |
鉄骨鉄筋コンクリート造・鉄筋コンクリート造 | 47年 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 38年 |
金属造のもので骨格材の肉厚が4㎜を超えるもの | 34年 |
金属造のもので骨格材の肉厚が3㎜を超え、4㎜以下のもの | 27年 |
金属造のもので骨格材の肉厚が3㎜以下のもの | 19年 |
例えば、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造・鉄筋コンクリート(RC)造のマンションの法定耐用年数は47年です。
一方、木造・合成樹脂造の建物は22年で、金属造の建物は19年から34年と構造ごとに大きく耐用年数が異なります。
ただし、上記にあげた法定耐用年数は新築の場合で、中古マンションの場合は取得してからの耐用年数を合理的に求める必要があります。
もし、耐用年数を合理的に見積もれないときは、ケースにより下記のどちらかの計算式を使用して求めてください。
1.中古資産を取得時、既に全ての法定耐用年数を経過していた場合:法定耐用年数×20%
2.法定耐用年数の一部を経過していた場合:(法定耐用年数ー経過した年数)+(経過した年数×20%)
主な付帯設備の法定耐用年数
マンションの減価償却を行う際は、建物本体だけでなく電気設備などの付帯設備の減価償却を行えます。
主な付帯設備の法定耐用年数は、下記の通りです。
付帯設備名 | 法定耐用年数 |
照明設備を含む電気設備 | 蓄電池電源設備:6年その他のもの:15年 |
給排水・衛生設備、ガス設備 | 15年 |
アーケード・日よけ設備 | 主として金属製のもの:15年その他のもの:8年 |
上にあげた付帯設備は、固定資産の種類では建物付属設備に分類されることも、あわせて覚えましょう。
マンション経営する際の法定耐用年数のリスク
マンション経営をする際に、法定耐用年数を超えると金融機関から融資を受けられないリスクがあることに注意が必要です。
マンションを購入するときは、基本的に法定耐用年数以内の物件であれば金融機関から融資を受けられます。
例えば、築20年の鉄筋コンクリート(RC)造の中古マンションを購入する際に、金融機関から融資を受ける場合、法定耐用年数の47年から20年を差し引いた27年を返済期限に設定することになります。
このように金融機関からの融資の返済は法定耐用年数以内の期限となるため、法定耐用年数を超えた中古物件を購入する場合、金融機関からの融資を受けられない恐れがあるでしょう。
また、法定耐用年数後にマンションを売却することを考えると、中古物件だけでなく新築の場合にも法定耐用年数について考える必要があります。
理由は、法定耐用年数を過ぎると老朽化により多額の修繕費がかかることが想定される上、築浅の物件と比べると売却のしづらさがあるためです。
マンション経営の際は、中古物件でも新築物件でも、法定耐用年数のリスクを考えておく必要があるといえるでしょう。
マンションの減価償却のメリット
マンションの減価償却には、下記の3つのメリットがあります。
・節税ができる
・マンションの管理を上手にできる
・キャッシュフローをうまく調整できる
1つずつ解説していきますので、確認していきましょう。
節税ができる
マンションの減価償却を行うことで、節税できることがメリットの一つです。
法人税は課税所得×法人税率で算出し、減価償却費を計上すると課税所得、つまり減価償却費分の利益が減ります。
利益が減れば法人税額も減るため、節税が可能になります。
減価償却費を計上し、長期的に節税効果を受けるとよいでしょう。
マンションの管理を上手にできる
減価償却を行うと法定耐用年数を意識するため、マンションの管理を上手にできます。
法定耐用年数はマンションの適切な使用可能期間として設定されており、リフォームやリノベーションなどを考える際に目安となる期間でもあります。
したがって、減価償却を行うことで耐用年数を考慮でき、修繕を行うなど早めに手を打てるため、安全にマンション管理ができるといえるでしょう。
キャッシュフローをうまく調整できる
マンション経営を行い、家賃収入が増えれば利益が増えて、法人税の支払いが多くなることでしょう。
ただし、設備投資にかかる減価償却費が法定耐用年数より短い期間であれば、設備投資にかかる費用を減価償却でなく、経費として計上できる場合があります。
設備投資にかかる費用を経費として計上できれば、増えた家賃収入による利益を減らして法人税の支払いが減るため、キャッシュフローをうまく調整できることになります。
マンションの減価償却費の計算方法
ここまでマンションの減価償却や法定耐用年数などについて解説してきましたが、ここではマンションの減価償却費の計算方法について具体例を挙げて解説していきます。
下記の手順で解説しますので、確認していきましょう。
・所有するマンションを土地と建物に分けて算出する
・減価償却費を算出する
①所有するマンションを土地と建物に分けて算出する
マンションの減価償却費の計算を行うために、まずは所有するマンションの取得価額について、土地と建物に分けて算出する必要があります。
土地と建物に分けて取得価額を算出する理由は、土地は減価償却を行わないためです。
土地と建物の取得価額を分ける方法は、下記の4つです。
・売買契約書をみる
・住宅ローン控除申請書を見る
・消費税で計算する
・固定資産評価額で計算する
1つずつ解説しますので、あなたに合った方法を探してみてください。
売買契約書をみる
まずは、売買契約書をみる方法です。
マンションを購入した際の売買契約書に、土地と建物の取得価額が記載されているかを確認してみてください。
新築マンションのケースでは、一般的に売買契約書にマンションの取得価額が記載されていることが多いでしょう。
一方で、中古マンションのケースではマンションの取得価額が記載されていないことがあるため注意が必要です。
住宅ローン控除申請書を見る
住宅ローン控除を申請していれば、申請書に土地と建物が分かれた取得価額が載っています。
売買契約書で取得価額を確認できない場合、住宅ローン控除申請書を確認してみるとよいでしょう。
消費税で計算する
売買契約書と住宅ローン控除申請書で確認できない場合、消費税をもとにすれば建物の取得価額を計算できます。
なぜなら、土地は消費税がかからないからです。
計算式は下記の通りです。
建物の取得価額=消費税÷購入したときの消費税率
購入したときの消費税率は、下記を参考にしてください。
対象期間 | 消費税率 |
1989年4月1日~1997年3月31日 | 3% |
1997年4月1日~2014年3月31日 | 5% |
2014年4月1日~2019年9月30日 | 8% |
2019年10月1日~2023年現在 | 10%※軽減税率対象品は8% |
なお、中古マンションを課税事業者ではない免税事業者から購入していた場合は消費税がかからないため、上記の計算方法は使えません。
該当する人は、次で解説する固定資産評価額で計算する方法を参考にしてください。
固定資産評価額で計算する
固定資産評価額をもとに建物の割合を算出し、取得価額の合計金額に建物の割合をかければ、建物の取得価額が計算できます。
固定資産評価額をもとに、建物の割合を算出する計算方法は下記の通りです。
建物の割合=建物の固定資産税評価額÷(土地の固定資産税評価額+建物の固定資産税評価額※対象のマンションにおける固定資産評価額の総額)
②減価償却費を算出する
建物の純粋な取得価額を割り出せたら、減価償却費を算出します。
ここでは、新築マンションと中古マンションそれぞれの減価償却費の計算方法について解説します。
新築マンションの減価償却費の計算
マンションを含む建物の減価償却の計算法は、定額法です。
したがって、新築マンションの減価償却費の計算は、マンションの取得価額×定額法の償却率で計算します。
例えば、鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)の新築マンションを3,500万円で購入したとしましょう。
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)のマンションの耐用年数は47年で、定額法の償却率は0.022です。
したがって、1年間の減価償却費は下記の計算式で求めます。
建物の取得価額(3,500万円)×定額法(0.022)=77万円
また、直接法と間接法で仕訳をする場合は、それぞれ下記の通りです。
・直接法
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 770,000円 | 建物 | 770,000円 |
固定資産から直接減価償却費を差し引くため、貸方には建物を計上します。
・間接法
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 770,000円 | 減価償却累計額 | 770,000円 |
固定資産から直接差し引かずに、減価償却累計額を貸方に計上します。
中古マンションの減価償却費の計算
中古マンションの減価償却費を計算する場合、取得した時点からの耐用年数を合理的に見積もる必要があります。
もし、合理的に耐用年数を見積もれない場合は、下記の簡便法の計算式を使用してください。
1.中古資産を取得時、既に全ての法定耐用年数を経過していた場合:法定耐用年数×20%
2.法定耐用年数の一部を経過していた場合:(法定耐用年数ー経過した年数)+(経過した年数×20%)
どちらの計算式を用いるかは、中古マンションを取得した状況により決めます。
例えば、築15年で鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)のマンション(耐用年数47年)を3,500万円で購入したケースを考えてみましょう。
法定耐用年数の一部を経過しているため、上記の2の計算に当てはめて計算した耐用年数は下記の通りです。
(法定耐用年数(47年)ー経過した年数(15年))+(経過した年数(15年)×20%)=32年+3年=35年
上記の計算から、例に挙げた中古マンションの耐用年数は35年であることが分かり、耐用年数35年の定額法の償却率は0.029です。
したがって、減価償却費の計算を行うと下記のようになります。
建物の取得価額(3,500万円)×定額法(0.029)=101万5,000円
直接法と間接法でそれぞれ仕訳をした結果は、下記の通りです。
・直接法
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 1,015,000円 | 建物 | 1,015,000円 |
・間接法
借方 | 貸方 | ||
減価償却費 | 1,015,000円 | 減価償却累計額 | 1,015,000円 |
もし、中古のマンションを購入した際に既に全ての法定耐用年数を経過していた場合は、上記で挙げた1の計算式を用いて耐用年数を算出し、減価償却費を計算してください。
リフォームやリノベーションした際の減価償却
リフォームやリノベーションをした際の減価償却は、どのように考えればよいでしょうか?
リフォームは、元の状態に戻すための原状回復を目的としているために資本的支出に該当せず、減価償却費を計上せずに経費で処理を行うケースが多いと考えられます。
一方、リノベーションの場合は、建物の価値を高めて耐用年数を延長させるような工事を行うことが想定されるため、資本的支出に該当する可能性があるでしょう。
したがって、次の章でリノベーションした際の減価償却費の計算について解説します。
リノベーションした際の減価償却費の計算
リノベーションした際は、リノベーション費用×定額法の償却率で減価償却費の計算を行います。
例えば、耐用年数が47年で定額法の償却率0.022の鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造)のマンションを200万円で改装工事を行った場合は、下記の計算式で減価償却費を算出します。
リノベーション費用(200万円)×定額法の償却率(0.022)=4万4,000円
したがって、リノベーションした際の減価償却費は年間で4万4,000円です。
なお、マンション本体だけでなく、共用部の電気設備や給排水設備などの建物付属設備のリノベーションを行った際も、上記と同様の計算式で減価償却費を算出します。
まとめ
本記事では、マンションの減価償却費の計算方法を具体例とともに解説しました。
マンションは、建物本体だけでなく付帯設備も減価償却を行い、定額法で計算することを覚えておきましょう。
マンションの減価償却のメリットは、主に下記の3つが挙げられます。
・節税ができる
・マンションの管理を上手にできる
・キャッシュフローをうまく調整できる
また、マンションの減価償却費は、下記の順番で算出します。
・所有するマンションを土地と建物に分けて算出する
・減価償却費を算出する
マンションの減価償却費を計算する際は、土地と建物の取得価額を分ける必要があることと、新築マンションと中古マンションでは減価償却費を算出する流れが異なることに注意をしてください。
本記事を参考にしていただき、マンションの減価償却費の計算を適切に行いましょう。