キャッシュフロー計算書は、損益計算書・貸借対照表と共に財務三表と呼ばれる重要な決算書です。
しかし、キャッシュフロー計算書をどのように見れば良いのかわからない人も多いのではないでしょうか?
そこで、本記事ではキャッシュフロー計算書の作り方や見方、また作成義務の有無などについても解説していきます。
さらに、直接法と間接法の違いや作り方についても解説しますので、キャッシュフロー計算書を詳しく知りたい人はぜひ最後までお読みください。
キャッシュフロー(CF)とは?
キャッシュフロー計算書を理解するために、まずは下記の3つの項目から解説していきます。
● キャッシュフローとは
● キャッシュフロー計算書が必要な理由
● キャッシュフロー計算書の作成義務は上場企業のみ
一つずつ解説しますので、確認していきましょう。
キャッシュフローとは
キャッシュはお金、フローは流れを表していることからわかる通り、キャッシュフローとはお金の流れのことです。
したがって、お金の流れを把握する決算書がキャッシュフロー計算書で、キャッシュフロー計算書を見れば1年間で入ってくるお金と出ていくお金の流れがわかります。
キャッシュフロー、つまりお金の流れは、入ってくるお金のキャッシュインと出ていくお金のキャッシュアウトを用いて、下記の計算式で表すことを覚えておくとよいでしょう。
・キャッシュフロー=キャッシュインーキャッシュアウト
なお、キャッシュは現金だけでなく、普通用預金や当座預金などの現金同等物もキャッシュとして扱われることも覚えておきましょう。
キャッシュフロー計算書が必要な理由
キャッシュフロー計算書が必要な理由は、利益とお金の流れは一致していないため、キャッシュの流れがわかる計算書が必要なためです。
貸借対照表を見れば財政状態がわかり、損益計算書を見れば儲けがわかりますが、キャッシュの流れはわかりません。
キャッシュの流れがわからないと、損益計算書上で儲けが出ていても資金繰りが悪く倒産する、いわゆる黒字倒産をしてしまう恐れがあります。
したがって、資金不足に陥っていないかを確認するために、キャッシュフロー計算書は必要です。
キャッシュフロー計算書の作成義務は上場企業のみ
キャッシュフロー計算書は、金融商品取引法が適用されている上場企業のみ作成義務があります。
したがって、非上場の中小企業や個人事業主などは、キャッシュフロー計算書の作成義務はありません。
なお、貸借対照表と損益計算書は、全ての企業で作成義務があることも覚えておくとよいでしょう。
キャッシュフロー計算書の作成義務はある?
キャッシュフロー計算書の作成義務があるのは、上場企業だけです。
ただし、お金の出入りを把握しないと黒字倒産などのリスクも考えられるため、キャッシュフロー計算書を作成して、お金の流れを把握するのは大切なことです。
したがって、作成義務がない非上場会社でもキャッシュフロー計算書を作成するのがよいといえます。
キャッシュフロー計算書の見方と読み方
ここでは、キャッシュフロー計算書の見方と読み方を解説していきます。
解説する項目は下記の4つです。
● 営業活動によるキャッシュフロー
● 投資活動によるキャッシュフロー
● 財務活動によるキャッシュフロー
● フリーキャッシュフロー
一つずつ確認していきましょう。
営業活動によるキャッシュフロー
営業活動によるキャッシュフローは、本業の活動を行うことで生じた売上や仕入代金などの営業活動に関わる収入と支出のことです。
売上や仕入代金のほかに、現金で回収した売掛金、また経費などの現金支払いなどの取引も含まれます。
営業活動によるキャッシュフローを見れば、本業でどれだけの現金を獲得できたかがわかります。
投資活動によるキャッシュフロー
投資活動によるキャッシュフローは、固定資産や有価証券の取得・売却などの投資に関わる収入と支出のことです。
投資活動によるキャッシュフローを見れば、本業で利益を獲得するためにどれくらいの投資を行ったかがわかります。
財務活動によるキャッシュフロー
財務活動によるキャッシュフローは、金融機関からの借入金や株式の発行などの財務活動に関わる収入と支出のことです。
財務活動によるキャッシュフローを見れば、本業の活動や投資活動を行うために必要な資金をどれだけ調達・返済したかがわかります。
フリーキャッシュフロー
フリーキャッシュフローは、企業が稼いだお金のうち、自由に使えるお金のことです。
経営状況が急に変わった際、手元資金であるフリーキャッシュフローがあれば安心なため、多ければ多いほど安定した経営ができているといえるでしょう。
フリーキャッシュフローを算出するための一般的な計算式は下記の通りなので、覚えておきましょう。
フリーキャッシュフロー=(営業活動によるキャッシzュフロー)ー(投資活動によるキャッシュフロー)
キャッシュフロー計算書で企業の状況を分析
キャッシュフロー計算書を分析する際は、前の章で解説した下記の3つの区分のキャッシュフローの符号が、それぞれプラスかマイナスかを見ることが大切です。
● 営業活動によるキャッシュフロー
● 投資活動によるキャッシュフロー
● 財務活動によるキャッシュフロー
そこで、ここでは会社の状況ごとに、上記3つのキャッシュフローが一般的にプラスなのかマイナスなのかを解説していきます。
安定企業型
安定企業型の場合は、一般的に下記のパターンになります。
区分 | 符号 |
---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
投資活動によるキャッシュフロー | マイナス(ー) |
財務活動によるキャッシュフロー | マイナス(ー) |
本業の活動によりお金が増えたことで、設備投資を実行し、借入金の返済ができていることがわかります。
順調に経営できていることが推察されるため、安定企業型といえるでしょう。
成長企業型
成長企業型の場合は、一般的に下記のパターンになります。
区分 | 符号 |
---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
投資活動によるキャッシュフロー | マイナス(ー) |
財務活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
本業の活動や金融機関などからの借入金などで得たお金で、設備投資をおこなっていることがわかります。
事業を拡大している成長企業型といえるでしょう。
事業縮小企業型
事業縮小企業型の場合は、一般的に下記のパターンになります。
区分 | 符号 |
---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
投資活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
財務活動によるキャッシュフロー | マイナス(ー) |
本業の活動と設備投資や有価証券を売却したことで得たお金を、借入金の返済へ充てていることがわかります。
新規の設備投資を行っていなく、事業を縮小している企業型といえるでしょう。
ベンチャー・スタートアップ企業型
ベンチャー・スタートアップ企業型の場合は、一般的に下記のパターンになります。
区分 | 符号 |
---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | マイナス(ー) |
投資活動によるキャッシュフロー | マイナス(ー) |
財務活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
本業の活動で稼げていないものの、財務活動による資金調達で得たお金をもとに、設備投資を行っていることがわかります。
新規事業を立ち上げたベンチャー・スタートアップ企業型といえるでしょう。
倒産の危険がある企業型
倒産の危険がある企業型の場合は、一般的に下記のパターンになります。
区分 | 符号 |
---|---|
営業活動によるキャッシュフロー | マイナス(ー) |
投資活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
財務活動によるキャッシュフロー | プラス(+) |
本業の活動で稼げていない分を、設備・有価証券の売却や金融機関からの借入金などでカバーしている企業です。
本業の活動でキャッシュを獲得できていない、倒産の危険がある企業型といえるでしょう。
損益計算書と貸借対照表との関係性
キャッシュフロー計算書は、損益計算書・貸借対照表と共に財務三表と呼ばれ、それぞれの決算書と関係しています。
そこで、ここでは下記の2つについて解説していきます。
● 損益計算書との関係性
● 貸借対照表との関係性
損益計算書との関係性
キャッシュフロー計算書と損益計算書は、営業活動によるキャッシュフローと関係性が深いといえます。
なぜなら、キャッシュフロー計算書の間接法は、損益計算書に示されている税引前当期純利益を起点として作成していくからです。
したがって、営業活動によるキャッシュフローと、損益計算書の営業利益を見比べるとよいでしょう。
特に、見比べた際に損益計算書の営業利益が黒字で、営業活動によるキャッシュフローがマイナスのときは、よく注意して確認してください。
営業活動によるキャッシュフローがマイナスの理由として、売上債権の回収遅れや棚卸資産の増加などが考えられるため、事業の運営体制を見直す必要があるでしょう。
キャッシュフロー計算書は損益計算書とあわせて確認することで、運営体制の現状分析を行ってみてください。

貸借対照表との関係性
貸借対照表は、期末時点の財政状態を表す決算書です。
貸借対照表の前期末時点の現金残高と当期末時点の現金残高の差額、つまり1年間の現金の変動金額の内訳をキャッシュフロー計算書で示すため、関係性が深いといえるでしょう。
また、営業活動によるキャッシュフローは貸借対照表の売掛金や棚卸資産などの資産勘定、債務などの負債勘定を参考に作成します。
さらに、投資活動によるキャッシュフローは、貸借対照表の投資有価証券や固定資産などを参考にして作成するため、貸借対照表とキャッシュフロー計算書は深い関係があるといえるでしょう。
キャッシュフロー計算書の直接法と間接法の違い
キャッシュフロー計算書の営業活動によるキャッシュフローを作成する方法として、直接法と間接法があります。
そこで、ここでは2つの方法について、それぞれの意味や違いなどを解説していきます。
直接法とは
直接法とは、営業による収入や経費による支出など主要な取引項目ごとに集計し、作成する方法のことです。
直接法で作成した例は、下記の通りです。
営業による収入 | 1,000 |
仕入による支出 | -300 |
経費による支出 | -200 |
小計 | 500 |
メリットは、主要な取引項目ごとに表示されているため、何に対しての収入・支出なのかわかりやすいことが挙げられます。
一方デメリットは、取引項目ごとの集計に時間と手間を要することです。
間接法とは
間接法とは、損益計算書と貸借対照表を参考にし、作成する方法のことです。
間接法で作成した例は、下記の通りです。
税引前当期純利益 | 200 |
減価償却費 | 40 |
売上債権の増減 | 200 |
棚卸資産の増減 | 160 |
仕入債務の増減 | -100 |
小計 | 500 |
メリットは、既に作成された損益計算書と貸借対照表を参考にするため、手間と時間がかからないことが挙げられます。
デメリットは、取引項目ごとに集計されていないため、キャッシュの流れを把握しづらいことです。
直接法と間接法との比較
直接法と間接法を比較して、メリットとデメリットをまとめた表は下記の通りです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
直接法 | 主要な取引項目ごとに表示されているため、キャッシュの流れを把握しやすい。 | 取引項目ごとの集計に時間がかかる。 |
間接法 | 損益計算書と貸借対照表を参考にして作成をするため、手間と時間がかからない。 | キャッシュの流れを把握しづらい。 |
なお、2つの方法の違いは項目の表示の仕方のため、どちらの方法で作成しても合計金額は変わりません。
どちらの作成方法を採用したら良いかについては、社内の経理体制や管理の仕方などを考慮して決めると良いでしょう。
【直接法】キャッシュフロー計算書の作り方
ここからは、実際にキャッシュフロー計算書の作り方を解説していきます。
まずは、直接法から見ていきましょう。
直接法は下記の順番で作成していきます。
1.営業収入の集計
2.仕入の支出を集計
3.人件費等の支出を集計
4.営業費の支出を集計
一つずつ解説していきます。
➀営業収入の集計
まずは、営業収入の集計から行っていきます。
総勘定元帳などを準備して、主に下記の金額を抽出しましょう。
● 売上のうち、現金による売上で現金が増加した金額
● 売掛金や受取手形のうち、現金で回収した金額
営業収入は、売上に関係する現金の増加金額を指しているため、該当する金額を集計していきます。
➁仕入の支出を集計
次に、仕入の支出を集計していきます。
総勘定元帳などから、下記の内容を抽出しましょう。
● 仕入のうち、現金で仕入れをして現金が減少した金額
● 買掛金や支払手形のうち、現金で支払った金額
➂人件費等の支出を集計
続いて、人件費の支出を集計していきます。
給与や賞与、また退職金などの人件費の勘定科目のなかで、当期に現金で支払いを行った金額を集計してください。
④営業費の支出を集計
最後に営業費、つまり本業の活動のために支出した販売費及び一般管理費の中から、当期で現金支払いを行った金額について、総勘定元帳などを用いて集計していきます。
抽出する販売費及び一般管理費の勘定科目の例は、下記の通りです。
● 消耗品費
● 修繕費
● 広告宣伝費
営業費の支出の集計が完了すると、直接法で記載する営業活動によるキャッシュフローの項目別の金額がわかることになります。
その後、小計以外の営業活動によるキャッシュフローの金額を集計し、投資活動によるキャッシュフローと財務活動によるキャッシュフローの増減も合算します。
あとは、それぞれのキャッシュフローの当期増減金額に前期末の現金残高を足して、当期の現金残高を計算すると完成です。
【間接法】キャッシュフロー計算書の作り方
続いて、間接法のキャッシュフロー計算書の作り方について解説していきます。
間接法を作成する順番は、下記の通りです。
1.損益計算書の税引前当期純利益の額を入力
2.非資金損益項目の調整
3.営業外収益と営業外費用、特別利益と特別損失の調整
4.営業活動に関係するキャッシュの増減の計算
一つずつ確認していきましょう。
①損益計算書の税引前当期純利益の額を入力
はじめに、損益計算書の税引前当期純利益の金額を入力するところから始めましょう。
直接法の作り方と異なり、間接法では損益計算書の税引前当期純利益を起点にして、営業活動によるキャッシュフローの小計を作成していきます。
②非資金損益項目の調整
次に、非資金損益項目の調整を行います。
非資金損益項目とは、損益に計上しているものの現金の増加・減少を伴わない項目のことで、代表的なものが減価償却費と貸倒引当金繰入額です。
例えば、減価償却費は当期の費用として計上されますが、すでに取得した固定資産の取得価額を特定の期間で費用計上しているだけのため、実際に現金が出ていっているわけではありません。
したがって、減価償却費は損益計算書上は費用として利益から差し引かれているため、キャッシュフロー計算書上では加算することを覚えておきましょう。
③営業外収益と営業外費用、特別利益と特別損失の調整
続いて、本業の活動以外の項目を調整するために、営業外収益と営業外費用、さらに特別利益と特別損失を除外します。
例えば、受取配当金の場合、受取配当金の金額分をマイナスして調整します。
なお、受取配当金は営業活動によるキャッシュフローの小計以外の箇所で考慮するため、除外しても問題ありません。
④営業活動に関係するキャッシュの増減の計算
最後に、営業活動に関係するキャッシュの増減の計算を行います。
ここでは、損益計算書ではなく貸借対照表から金額を抽出するのがポイントです。
なぜなら、損益計算書の売上高などは現金だけでない合計の金額を指しているため、現金だけの取引金額を抽出できないからです。
したがって、貸借対照表の特定の勘定科目について、前期末残高と当期末残高を確認し、前期末に比べて当期末の金額が増加なのか、減少なのかを確認しましょう。
キャッシュフローの項目に対応する貸借対照表の勘定科目と、前期と比べて増加していた場合のキャッシュフロー計算書の符号をまとめた表は、下記の通りです。
キャッシュフローの項目 | 貸借対照表の 勘定科目 | 前期と比べて増加していた場合のキャッシュフロー計算書の符号 ※減少していた場合、符号は逆 |
---|---|---|
売上債権 | 売掛金・受取手形など | キャッシュを回収できていないため「マイナス」 |
棚卸資産 | 商品、仕掛品など | キャッシュを回収できていないため「マイナス」 |
仕入債務 | 買掛金や支払手形など | 支払時期が来ていないため「プラス」 |
売上債権を例に出して解説します。
キャッシュフロー計算書で、売上債権の金額を記載したいときに見る貸借対照表の勘定科目は、売掛金・受取手形などです。
そして、売掛金・受取手形などが前期と比べて増加していた場合は、現金を回収できていないため、マイナス符号でキャッシュフロー計算書に記載することになります。
もし、売掛金・受取手形などが前期と比べて減少していた場合は、符号は逆のプラスになるため注意してください。
上記の作業まで完了したら、営業活動によるキャッシュフローの小計が完成します。
残りは直接法と同様に営業活動によるキャッシュフローを完成させ、投資活動によるキャッシュフロー・財務活動によるキャッシュフローもあわせて作成し、キャッシュフロー計算書を完成させます。
まとめ
本記事では、キャッシュフロー計算書の見方や読み方、また直接法・間接法の違いなどを解説しました。
キャッシュフロー計算書とは、お金の流れを把握する決算書で、下記の4つの項目の考え方を理解して読むのが大切です。
● 営業活動によるキャッシュフロー
● 投資活動によるキャッシュフロー
● 財務活動によるキャッシュフロー
● フリーキャッシュフロー
また、キャッシュフロー計算書には直接法と間接法があり、それぞれのメリットとデメリットは下記の通りです。
メリット | デメリット | |
---|---|---|
直接法 | 主要な取引項目ごとに表示されているため、キャッシュの流れを把握しやすい。 | 取引項目ごとの集計に時間がかかる。 |
間接法 | 損益計算書と貸借対照表を参考にして作成をするため、手間と時間がかからない。 | キャッシュの流れを把握しづらい。 |
キャッシュフロー計算書を見るときは、まずは直接法と間接法のどちらの形式なのかを把握してから分析するようにしましょう。
また、本記事内で直接法と間接法の作り方も解説しているので、ぜひ参考にしてください。