決算書を作成しているときに、過年度での決算の間違いを発見することがあるでしょう。
しかし、当期ではなく過年度の修正のため、決算書の修正と修正申告をどのように行えばよいのか、わからない人も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では決算書の修正と修正申告の方法を解説していきます。
状況ごとに修正の方法が変わるため、記事を最後までお読みいただき、決算書の修正と修正申告を正しく行いましょう。
決算の目的と手続きの流れ
法人の場合、決算の目的は財政状態や経営成績を正確に把握し、株主などの利害関係者に報告することです。
また、税金を正しく計算することも決算の目的の一つといえます。
法人が行う決算の手続きの流れは、下記の通りです。
1.日々の取引を記帳する。
2.決算事項の確認をしながら、試算表を作成する。
3.決算整理仕訳をする。
4.決算書を作成する。
5.確定申告書を作成する。
6.税務署に決算書と確定申告書を提出し、税金を納付する。
なお、事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内に、法人税などの税金を納める必要があります。
したがって、期日までに税金を納められるように、決算書を作成し、確定申告書を作成する流れになります。
法人税の支払期日が遅れた場合、延滞税などの追徴課税が課される恐れがあるため、計画的に決算業務を進めることが大切です。
決算書の決算修正とは?
決算書の決算修正とは、過去に作成した決算書において誤りが見つかったため、当年度の決算書で修正することです。
決算の修正の際は、平成21年に公表された「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」という決算修正についての法令がポイントになります。
上記の法令により、平成23年4月1日以降に開始する事業年度の期首以降の会計上の変更と過去の誤謬(間違い)の訂正方法が大きく変更されました。
大きな変更点は、従来は過去の決算書の修正については勘定科目「前期損益修正」で処理できましたが、上記の会計基準により現在は例外的な使用に限定されている点です。
さらに、上記の会計基準の対象は大企業のみということも重要なため、覚えておきましょう。
また、中小企業は下記のどちらかに従って会計処理を行うことになっています。
● 中小企業の会計に関する指針(中小指針)
● 中小企業の会計に関する基本要領(中小要領)
そのため、中小企業は大企業と異なり、前期損益修正の勘定科目を用いることが可能です。
大企業と中小企業では、決算の修正方法が異なることを覚えておくとよいでしょう。
また、間違えやすい言葉として「決算整理」が挙げられます。
決算整理とは、過去は影響せず、当期の決算において収益や費用を正しく把握して整理し、当期の決算書に適切に反映させることです。
一方、決算修正は過去に間違ってしまった内容を当年の実績で修正することのため、正しく区別できるようにしましょう。
決算修正が起こる原因は?
前の章で決算修正の意味について解説しましたが、そもそも決算修正が起こる原因は何があるのでしょうか?
例えば、メーカーの場合、商品などの棚卸資産の計上漏れや、棚卸資産の評価方法が間違っていたケースです。
期末を迎えると商品の棚卸を行い、実際にあった商品と帳簿上の商品残高を一致させるように帳簿を締め切ります。
しかし、商品対象とすべきものを商品在庫として数えていなかったり、棚卸した商品の数が合っているものの、評価方法を間違ってしまう可能性があります。
さらにもう一つの例が、期末時期の入金・出金に気付かずに、決算を締めてしまったケースです。
企業が管理している預金について通帳記帳をしなかったばかりに、売上や未収入金などの入金や経費などの出金を見逃してしまった例です。
預金の入金や出金は、貸借対照表だけでなく、損益計算書にも影響するため、決算の修正にならないように適切に管理することが大切といえます。
修正申告をしなかった場合はどうなる?
決算の間違いに気付いたものの修正申告をしなかった場合、税務調査で指摘をされる恐れがあります。
決算の修正をして利益が増えるケースでは、税務上の益金が増えるため、本来納めるべき税金が多かったことになります。
税務調査で指摘をされた場合、本来納めるべき税金に加え、追徴課税の過少申告加算税を課されてしまうため、決算の間違いに気付いた時点で修正申告も行うように注意が必要です。
ただし、多く納税していたことに気付き、還付を受ける手続きの「更生の請求」については任意のため、申告しなくても問題がないことを覚えておきましょう。
法令で認められる決算修正の考え方
すでに解説した通り、現在の法令において、大企業が前期損益修正の勘定科目を使用して決算修正を行うことは、例外的な場合に限定されています。
現在の法令において、決算の修正はどのように考えれば良いのでしょうか?
そこで、ここでは法令で認められる決算修正の考え方を解説していきます。
決算修正を行うには過年度遡及処理が必要
現在の法令で認められる決算修正を行うには、過年度遡及処理が必要です。
過年度遡及処理の方法は、平成21年に出された、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準で示されており、修正再表示が必要とされています。
修正再表示とは、過去の誤謬(間違い)の訂正を決算書へ反映することを指し、修正再表示をすることで、過年度の決算書の遡及処理が可能です。
もしくは、過年度の決算書の間違いはあるものの、過年度から正しく処理されていたものと考え、当期の決算書を作成する方法を取ることになります。
なお、過去の誤謬の訂正を行った場合には、過去の誤謬の内容を注記する必要があることも覚えておきましょう。
従来の決算修正の「前期損益修正」が行えるケース
現在の法令において、決算修正の「前期損益修正」が行えるのは、下記の2つのケースのときです。
● 修正するのが中小企業のケース
● 金額の重要性が低いと判断された修正のケース
まず、修正するのが中小企業においては、従来の前期損益修正を行えます。
中小企業は、中小企業の実態に配慮して作られた「中小企業の会計に関する基本要領」が優先されるため過年度の決算を修正せずに、当期での決算修正が可能です。
また、金額の重要性が低いと判断された場合も過年度の決算を修正する必要がなく、当期で決算の修正ができます。
決算修正の2つのパターンと方法
決算修正を行う場合、大きく分けて下記の2つのパターンがあります。
● 過年度の損益計算書に影響を与える誤りの場合
● 過年度の損益計算書に影響を与えない誤りの場合
それぞれの決算修正の方法を解説していきますので、自社が行う決算修正がどちらに該当するかを確認してみてください。
過年度の損益計算書に影響を与える誤りの場合
過年度の損益計算書に影響を与える誤りにあたるのは、前期において売上高や未収入金、未払費用などが未計上のケースです。
現行の法令では、過年度の誤りを当期の損益計算書に反映できないため、当期首の利益剰余金残高について、誤りのあった金額分だけ増減させる方法で修正します。
誤りのケースと決算の修正方法の具体例は、下記の通りです。
誤りのケース | 決算の修正方法 |
---|---|
前期で売上の未計上、 費用の二重計上があったケース | 本来前期で利益が増えるべきのため、誤りの金額分だけ当期首の利益剰余金を増やす。 |
前期で売上の二重計上、 費用の計上漏れがあったケース | 本来前期で利益が減るべきのため、誤りの金額分だけ当期首の利益剰余金を減らす。 |
利益剰余金は、翌期に繰り越される、前期で計上された利益です。
したがって、当期首の利益剰余金を修正することは、過年度に遡って修正することになるため、現行の法令に従っていることになります。
また、中小企業は過年度の損益計算書を修正する必要がなく、当期の決算で前期損益修正の勘定科目を用いて決算修正を行えます。
上記で挙げた例と同様のケースで考えた場合、決算の修正方法は下記の通りです。
誤りのケース | 決算の修正方法 |
---|---|
前期で売上の未計上、 費用の二重計上があった場合 | 当期の決算書で、誤りのあった金額を前期損益修正の勘定科目で貸方に計上する。 |
前期で売上の二重計上、 費用の計上漏れがあった場合 | 当期の決算書で、誤りのあった金額を前期損益修正の勘定科目で借方に計上する。 |
過年度の損益計算書に影響を与えない誤りの場合
次に、過年度の損益計算書に影響を与えない誤りの場合は、主に下記のケースが考えられます。
● 資産の勘定科目名称の誤り
● 長期と短期の分類誤り
上記の場合、当年度の決算書で正しい勘定科目へ計上することで対処できます。
状況によって変わる税務署への申告方法
決算の修正に伴う税務署への確定申告の方法は、状況によって変わり、下記の3つのケースがあります。
● 訂正申告
● 修正申告
● 更正の請求
上記のケースは、修正に気付いたのが確定申告期限の前か後か、また申告した税金が過少だったか、過大だったかで分けられます。
それぞれ解説していきますので、理解を深めていきましょう。
訂正申告
訂正申告は、確定申告を提出して、確定申告の期限前に間違いに気付いたときに行う手続きのことです。
個人事業主の確定申告期限は毎年3月15日、法人税の申告期限は事業年度終了日の翌日から2ヶ月以内のため、それまでに間違いに気付いたときに訂正申告を行います。
訂正申告を行うときは、改めて同じ書式で確定申告書を作成した後に、税務署へ提出してください。
ただし、基本的には訂正申告は通常の確定申告書のやり方と変わりはありませんが、修正した箇所を税務署に知らせる必要があります。
そこで、確定申告書と控えの余白部分に赤いボールペンなどの朱書きで「訂正申告」と記入しましょう。
さらに、訂正申告する前に確定申告書を提出した日付と、申告した税額を朱書きで記入します。
添付書類については一度提出をしてしまっているため再提出は不要ですが、訂正に関係する書類があった場合は、訂正申告をする際に添付が必要なことも覚えておきましょう。
また、税務署では確定申告期限内であれば、同じ人から複数の確定申告書が提出された場合、最後に提出された確定申告書が受理されることも覚えておくとよいでしょう。
修正申告
修正申告は、確定申告の期限後、納める税額が少なかった場合に行う手続きのことです。
また、還付の税金を多く申告した場合も、修正申告が必要になります。
所得税の修正申告の場合は、必要事項を記入した下記の書類が必要です。
● 見出しを「修正」申告とした申告書第一表
● 見出しを「修正」申告とした申告書第二表
● 修正申告に関わる別表の明細書など
修正申告は、確定申告の期限後のため、間違いに気付いた時点で修正を行うようにしましょう。
なぜなら、税務署からの指摘を受けた形で修正申告を行うと、延滞税や過少申告加算税などの追徴課税を課される恐れがあるからです。
さらに、税務署から悪質と指摘された場合は重加算税が課される恐れもあるため、間違いに気付いたら、できる限り早く修正申告を行うようにしましょう。
更正の請求
更生の請求は、確定申告の期限後、手違いなどにより納める税額が多く、還付を受けるために行う手続きのことです。
還付の税金を少なく申告していた場合も、更生の請求が必要になることを覚えておきましょう。
更生の請求の際は、税務署か国税庁のホームページより更生の請求書を取得してください。
更生の請求書には、更生の請求をする理由や事情の詳細を記入する必要があるため、必要事項を全て詳細に記入し、必要な書類も添付して税務署に提出します。
そして、税務署に提出後、更生の請求を行った内容が適切であれば受理され、多く納めすぎた税金が還付されることになります。
また、更生の請求の期限は、法律で定められた期限である法定申告期限より5年以内のため、気付いた時点で早めに請求をするとよいでしょう。
なお、更生の請求は、行わなくても罰則などがないことも覚えておきましょう。
決算修正における3つの注意点
前の章では、決算修正に伴う税務署への申告方法を解説しましたが、決算修正の際には以下の3つの注意点があります。
● 修正申告は早めに行う
● 何度も行うと監査が厳しくなる
● 税務調査で指摘される前に自主的に修正申告をする
それぞれ解説していきますので、決算修正を行う際に注意するようにしてください。
修正申告は早めに行う
前の章で解説した通り、修正申告は確定申告の期限後に、納める税額が少ないことに気付いたときに行う手続きのことです。
修正する金額が小さくても、税務署から指摘されれば追徴課税のペナルティを受けてしまう恐れがあります。
したがって、修正申告は気付いた時点で早めに行うことが大切です。
何度も行うと監査が厳しくなる
決算修正を何度も行うと、税務署の監査対象になりやすいなど、監査が厳しくなります。
したがって、間違いが起きないように、できる限りのチェックを行うなどの対策をして決算を締めて、確定申告をするようにしましょう。
税務調査で指摘される前に自主的に修正申告をする
決算の間違いがあったにもかかわらず修正申告をせず、税務署から指摘をされた後に修正申告を行うと、過少申告加算税などの追徴課税を課されてしまいます。
さらに、修正内容が悪質と判断されてしまうと重加算税が課されてしまうため、決算の間違いに気付いた時点で速やかに、かつ自主的に修正申告を行いましょう。
まとめ
本記事では、決算修正の方法や修正申告について解説しました。
決算修正は、過去に作成した決算書において間違いが見つかり、当年度の決算書で修正することです。
法令で認められる決算修正の考え方は、下記の2つの通りです。
● 決算修正を行うには過年度遡及処理が必要
● 従来の決算修正の「前期損益修正」が行えるケース
決算の修正を行う際は、上記のどちらの考え方に該当するかを確認してみてください。
また、決算修正を伴う税務署への申告方法は状況によって変わり、下記の3つの方法があります。
● 訂正申告
● 修正申告
● 更正の請求
確定申告の修正の際は、上記のどの方法にあたるかを確認し、ケースごとの適切な方法で税務署へ申告を行いましょう。
さらに、決算修正における3つの注意点は下記の通りです。
● 修正申告は早めに行う
● 何度も行うと監査が厳しくなる
● 税務調査で指摘される前に自主的に修正申告をする
間違った申告をしていたことに気付いた際は、速やかかつ自主的に修正申告を行うことが大切です。