「手形と小切手は何が違うのだろう?」
「手形を使うメリットは何があるのだろう?」
このように悩んでいませんか?
手形は取引先への支払方法の一つですが、小切手との違いがわからなかったり、どういったルールがあるのかわからなかったりする人も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では手形の基礎知識や小切手との違い、また手形を使用するときのルールや手形のメリット・デメリットなどを解説していきます。
手形でお悩みの人はぜひ最後までお読みください。
手形とは?手形と小切手の違い
手形とは、決められた金額を一定の期間後に支払う約束をした証書のことです。
記載のある支払い日以降に手形を金融機関へ持っていくことで、指定の金額を受け取れます。
一方、小切手はすぐに現金化が可能な証書のことで、金融機関へ持っていけばすぐに現金化できます。
したがって、手形と小切手の違いは現金化までの期間といえるでしょう。
なお、手形は決められた期日までに支払うため、手元にお金がなくても発行できますが、小切手は手元に資金がないと発行できません。
手形の種類と手形取引の流れ
手形を取引先に振り出した際は、支払手形の勘定科目を使用します。
また、支払手形には約束手形と為替手形の2種類があります。
そこで、支払手形・約束手形・為替手形の3種類の手形についてと、それぞれの手形の取引の流れを解説していきますので確認していきましょう。
支払手形
支払手形はお金を支払う立場から見た手形のことで、受け取る場合は受取手形といいます。
支払手形の取引の流れは、下記の通りです。
なお、手形の専用用紙に金額などの項目を記載し、取引先に手形を発行することを「振り出し」と呼ぶことも覚えておきましょう。
1.手形の振出人が金額などを記載した手形を受取人に渡す
2.手形の受取人は、指定された支払日以降に金融機関に手形を渡し、手形と代金を引き換える
3.手形の振出人が使用している金融機関は、手形の代金を振出人の口座から引き落とす
約束手形
約束手形とは、支払手形の種類の一つです。
記載された指定日に代金の支払いを行う約束をした有価証券で、振出人と受取人でやり取りを行います。
約束手形の取引の流れは、下記の通りです。
1.手形の振出人が受取人に金額などの項目を記載した約束手形を渡す
2.手形の受取人は、指定された支払日以降に金融機関へ約束手形を持ち込み、取立を依頼する
3.受取人の金融機関と振出人の金融機関が約束手形を交換する
4.手形の振出人の金融機関が、振出人の口座から代金を引き落とす
5.手形の振出人の金融機関が、受取人の金融機関へ代金を送金する
6.受取人の金融機関が約束手形の受取人に代金を支払う
前の章で解説した支払手形の流れと比べた場合、手順が多く感じるかもしれませんが、振出人と受取人が行うことには変わりがありません。
なお、手形を振り出す時点では、当座預金口座に資金がなくても問題ありません。
為替手形
為替手形とは、三者間での支払いを行う際に使用される手形のことで、振出人・受取人・代金の支払い人(引受人)のやり取りにより、手形の支払いを行います。
振出人が、売掛金などの債権のある取引先を代金の引受人とし、引受人に受取人への代金の支払いを依頼することで、3者間での決済を一度にできることになります。
為替手形の取引の流れは、下記の通りです。
1.振出人は引受人に引き受けの呈示をする
2.振出人が受取人に金額などを記載した手形を渡す
3.引受人は事前に金融機関へ入金しておく
4.受取人は支払い日以降に引受人に手形を渡し、取立依頼を行う
5.引受人の金融機関から受取人に代金の支払いが行われる
以上のように、約束手形とは異なり3者間でやり取りを行うのが為替手形、と覚えておきましょう。
手形取引のメリット
手形取引におけるメリットとして、主に下記の3つが挙げられます。
・現金の支払いを先延ばしにできる
・利息が発生しない
・社会的信用を示せる
それぞれ解説していきます。
現金の支払いを先延ばしにできる
手形取引はすぐに現金の支払いが必要でなく、現金の支払いを先延ばしにできます。
したがって、手元に現金がなくても支払日までに資金調達を行えば良いため、手形取引を活用することで資金繰りに余裕ができるでしょう。
利息が発生しない
手形取引は、支払い日を先延ばしにしても利息が発生しません。
そのため利息を負担する必要がない分、資金繰りに余裕ができるでしょう。
また、利息の仕訳をする必要もないため、経理実務の軽減もできます。
社会的信用を示せる
手形取引を行うには当座預金口座が必要ですが、当座預金口座を開設するには金融機関の審査に通る必要があります。
したがって、手形取引を行うことは金融機関の審査を通ったという証であるため、社会的信用を示せることになります。
手形取引のデメリット
手形取引にはメリットがある一方で、下記の5つのデメリットもあります。
・収入印紙代がかかる
・手形帳代がかかる
・不渡りのリスクがある
・代金受取が遅くなる
・代金受取の手間がかかる
それぞれ解説していきます。
収入印紙代がかかる
手形取引では、額面金額にもとづいて印紙税が発生するため、基本的には手形の振出人が収入印紙代を支払う必要があります。
現金振込による支払いを行う際は印紙税はかからないため、手形取引で収入印紙代がかかることはデメリットの一つといえるでしょう。
手形帳代がかかる
手形取引では、手形帳を有料で金融機関から受け取ります。
手形取引を行う際は、収入印紙代だけでなく、手形帳代がかかることもデメリットの一つとして覚えておきましょう。
不渡りのリスクがある
手形の支払い日までに手形の代金が口座に入金されていない場合は、引き落としができずに不渡りになってしまいます。
もし半年で2回の不渡りを出すと、取引停止の処分を受け、借入などができなくなり倒産してしまう恐れもあります。
口座の残高不足にならないように、注意して資金繰りを行いましょう。
代金受取が遅くなる
受取人は、指定された支払い日まで手形の代金を受け取れません。
現金の支払いを受けるときと比べると手形は代金受取が遅くなるため、資金繰りが悪化しないように注意が必要です。
代金受取の手間がかかる
受取人が手形の代金を受け取る際は、金融機関に足を運ぶ必要があるため手間がかかります。
現金振込による支払いは、直接口座に振り込まれるため金融機関に行く手間がないことを考えると、手形代金の受取に手間がかかることはデメリットといえるでしょう。
約束手形に関する用語解説
約束手形を扱うには、手形に関連する用語を覚えておく必要があります。
そこで、ここでは下記の4つの用語について解説していきます。
・手形の裏書
・手形割引
・不渡り手形
・手形の貸付
手形の裏書
手形の裏書とは、手形を譲渡することで第三者へ支払いを行う際に、手形の裏側に必要事項を記入することです。
手形の裏書は、手形の裏に会社名や住所、譲渡する相手先などを譲渡のたびに記入するため、経緯の確認が可能です。
また、裏書を行う上で振出人の同意などは必要なく、支払期日までに受取人を変えながら譲渡できる特徴を持っています。
手形割引
手形割引とは、支払期日を迎える前に金融機関に手形を買い取ってもらうことで現金化することです。
手形割引を行うと、支払期日までの利息や手数料が差し引かれるため、支払期日よりも前に現金化したいときに行う方法です。
不渡り手形
不渡り手形とは、受取人が支払期日以降に手形を金融機関に持ち込んだにもかかわらず、当座預金口座の残高が足りず、決済できないことです。
不渡りを半年で2回出すと取引停止の処分を受けるため、資金繰りには十分注意する必要があります。
手形の貸付
手形の貸付とは、約束手形を振り出すことで融資を受けることを指します。
手形の貸付は基本的に1年以内の短期貸付のため、つなぎ資金や運転資金の補填のために活用される方法です。
手形の書き方
手形は、手形法という法律でどのように作成すれば良いかが定められており、定められた内容が書かれていないと手形の効力が生じないため注意が必要です。
手形の記載項目は下記の通りですので、確認の上、全ての項目に記載してください。
また、印鑑と金額に応じた収入印紙も必要になります。
・約束手形の必要的記載事項
・約束手形であることを示す文字
・一定金額の単純な支払約束文句
・支払期日
・支払地
・受取人またはその指図人
・振出日
・振出地
・振出人の署名
・為替手形の必要的記載事項
・為替手形であることを示す文字
・一定金額の単純な支払委託文句
・支払人(引受人)の名称
・支払期日
・支払地
・受取人またはその指図人
・振出日
・振出地
・振出人の署名
出典:一般社団法人 全国銀行協会「動物たちと学ぶ 手形・小切手のはなし【手形・小切手の基礎知識】(P.7)」
手形を利用するときのルール
手形取引を行うには、守るべきルールがあります。
ここでは下記の4つのルールについて解説していきます。
・手形の金額が10万円以上の場合は収入印紙を貼る
・支払期日は60日以内にする
・不渡りが続くと取引停止になる
・裏書譲渡で第三者に譲渡できる
手形の金額が10万円以上の場合は収入印紙を貼る
印紙税法で定められているため、手形の金額が10万円以上の場合は収入印紙を貼る必要があります。
また、収入印紙代は手形の作成者(基本的には振出人)が負担することになります。
手形の金額が10万円未満から1千万円までの収入印紙の金額(印紙税額)は、下記の通りです。
記載された契約金額 | 税額 |
10万円未満のもの | 非課税 |
10万円以上100万円以下のもの | 200円 |
100万円を超え200万円以下のもの | 400円 |
200万円を超え300万円以下のもの | 600円 |
300万円を超え500万円以下のもの | 1,000円 |
500万円を超え1,000万円以下のもの | 2,000円 |
支払期日は60日以内にする
手形の振出日から支払期日までの期間が長いと、手形を受け取った側の資金繰りが悪化する恐れがあります。
そのため下請法の運用強化の取り組みにより、公正取引委員会と中小企業庁が手形の支払期日を60日以内にするよう要請しています。
したがって、手形の支払期日は最長でも60日以内にしましょう。
不渡りが続くと取引停止になる
不渡りを半年で2回出してしまうと取引停止の処分を受けるため、融資を受けられなくなり倒産の恐れが生じてしまいます。
当座預金口座の残高が不足しないように、十分気を付けて資金繰りを行いましょう。
裏書譲渡で第三者に譲渡できる
手形を譲渡する人が手形の裏側に自社と他社の情報を記入すると、裏書譲渡の仕組みにより第三者に手形を譲渡できます。
手元にある手形を第三者への支払いにあてるケースで使われる方法です。
手形取引での注意事項
ここでは手形取引での注意事項を解説します。
解説するのは下記の5つの注意事項です。
・手形を振り出す場合、振出人の署名があるかを確認する
・振り出した手形の金額の改ざんを防ぐ
・手形を受け取る場合、支払条件を確認する
・受け取った手形に必要記載事項が記載されているかを確認する
・受け取った手形の裏書が連続しているかを確認する
それぞれ確認していきましょう。
手形を振り出す場合、振出人の署名があるかを確認する
手形に必要な記載事項の一つとして、代表取締役や経理部長などの振出人の署名、つまり氏名が必要です。
会社名や会社の住所だけでなく、誰が手形を振り出したかを表す振出人の署名が必要なため、手形を振り出すときには必ず確認しましょう。
振り出した手形の金額の改ざんを防ぐ
振り出した手形の金額が改ざんされるのを防ぐことも大切です。
改ざんを防ぐために、下記の取り組みを行うと良いでしょう。
・チェックライター(印字の専用機械)を使用して印字する
・チェックライターで金額の印字後、金額の頭に¥、金額の終わりに※、★などを印字する
・手書きの場合は壱・弐・参などの漢数字を使用す・
・手書きで金額を記載後、金額の頭に金、金額の終わりに円と記入する
手形を受け取る場合、支払条件を確認する
手形を受け取る場合、支払期日と支払金額を確認し、取引先と事前にすり合わせた支払条件かどうかを確認しましょう。
継続して取引をしている相手であれば、これまでの支払条件と変わっていないかを確認することも大切です。
受け取った手形に必要記載事項が記載されているかを確認する
受け取った手形に必要記載事項が記載されていないと、手形の効力がないと見なされてしまいます。
「手形の書き方」の章に手形の必要記載事項の詳細がありますので、受け取った手形に必要記載事項が記載されているかを確認する際に参考にしてください。
受け取った手形の裏書が連続しているかを確認する
手形の支払いを受けるには、受け取った手形の裏書が連続している必要があります。
もし受け取った手形の裏書が連続していない場合、手形の取立を行っても支払いを拒否されてしまいます。
例えば、被裏書人の名称と次の裏書人の名称が一致していることなどを確認するようにしてください。
約束手形の仕訳方法
ここでは約束手形の仕訳方法について、下記の5つのケースを解説していきます。
・約束手形を振り出したときの仕訳方法
・約束手形を受け取ったときの仕訳方法
・受取手形を支払期日に決済したときの仕訳方法
・受取手形を裏書譲渡したときの仕訳方法
・受取手形について手形割引を利用したときの仕訳方法
約束手形を振り出したときの仕訳方法
約束手形を振り出したときは、支払手形を使用して仕訳をします。
商品の仕入代金50万円を、約束手形で決済した際の仕訳は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 500,000円 | 支払手形 | 500,000円 |
約束手形を受け取ったときの仕訳方法
約束手形を受け取ったときは、受取手形を使用して仕訳をします。
受取手形は手形債権を示す資産の勘定科目で、資産が増加したため借方に計上します。
商品を販売し、約束手形50万円を受け取った際の仕訳は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
受取手形 | 500,000円 | 売掛金 | 500,000円 |
受取手形を支払期日に決済したときの仕訳方法
受取手形を支払期日に決済したときは、受取手形が減少する代わりに当座預金が増加します。
受取手形50万円を決済した際の仕訳は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 500,000円 | 受取手形 | 500,000円 |
受取手形を裏書譲渡したときの仕訳方法
買掛金50万円を支払うために、50万円の受取手形を裏書譲渡した場合は、下記の仕訳になります。
借方 | 貸方 | ||
買掛金 | 500,000円 | 受取手形 | 500,000円 |
受取手形について手形割引を利用したときの仕訳方法
手形割引を利用した際に減額される利息や手数料は、手形売却損で計上します。
受取手形50万円を金融機関で手形割引し、割引料として1万円差し引かれ、残りの金額が当座預金に入金した仕訳は下記の通りです。
借方 | 貸方 | ||
当座預金 | 490,000円 | 受取手形 | 500,000円 |
手形売却損 | 10,000円 |
まとめ
本記事では、手形について詳しく解説しました。
手形とは、一定の期間後に決められた金額の支払いを約束した証書のことで、支払手形には約束手形、為替手形の2種類があります。
小切手はすぐに現金化が可能な証書のため、手形と小切手の違いは現金化までの期間です。
手形の主なメリットは下記の3つです。
・現金の支払いを先延ばしにできる
・利息が発生しない
・社会的信用を示せる
一方、手形のデメリットは下記の5つが挙げられます。
・収入印紙代がかかる
・手形帳代がかかる
・不渡りのリスクがある
・代金受取が遅くなる
・代金受取の手間がかかる
メリットとデメリットの両方を理解して、手形を利用すると良いでしょう。
また、手形を利用するときの守るべきルールは下記の通りです。
・手形の金額が10万円以上の場合は収入印紙を貼る
・支払期日は60日以内にする
・不渡りが続くと取引停止になる
・裏書譲渡で第三者に譲渡できる
記事内では手形取引での注意事項や仕訳方法なども解説していますので、手形を取り扱う際にはぜひ確認してみてください。